『コスメティック田中』というチャンネル名でYouTubeに動画投稿をしている田中さんという人がいる。押切蓮介作品に出てくる登場人物のようなサラサラの直毛、涼しげな目など、その風貌と話し方にすっかり魅了されているのだ。この世界の何処かで誰かが生きている!ということを実感させてくれる日常シーンを切り取った動画投稿の数々はどうにも私たちの心を癒してくれる。個人的なお気に入り動画をちょっとだけ紹介してみようと思いますので是非とも視聴くださいませ。
1– 23才男性の孤独な日常ルーティン【社会人ぼっち】
記念すべき初投稿。会社から徒歩5分のシェアハウスに住んでいるという田中さん。画面左上の表示されている時間経過とともに朝のルーティンを見せていく。お昼になると同僚とのランチから逃げるように一時帰宅し、カーテン閉め暗闇のなかで食事する。「この日、会社で言葉を発したのはわずか3回でした」というナレーションとは異なり、たった5分45秒の動画のなかでも多くの言葉や考えが遍在している。
2–会社の先輩と千葉大学の生活について語り合ってみた【文系×理系】
会社の先輩と千葉大学の生活について語り合ってみた【文系×理系】
「語り合ってみた」というタイトルが相応しくないほどに、先輩に質問をして答えてもらいそれをパソコンに打ち込むという病院の診察スタイル。一見聞きにくそうな質問を田中さんはズバズバと投げかけていくのだが、先輩も先輩で何の抵抗もなくすんなり答えていく。その無機質さとびっしり書き込まれたメモの非対称性に狂気が宿る。田中さん的に納得の質問対談を終えての動画の締めくくりも
田中「こんな感じですかね、大体は…」
先輩「これで大丈夫でしょうか」
田中「大丈夫です」
というものである。何が大丈夫なのだろう。なかなかに恐ろしい動画であるのだけれど、側から見ている分にはとても楽しい。
3–【Vlog】陰キャなら職場で獄激辛ペヤング食べても無感情でいられる説
【Vlog】陰キャなら職場で獄激辛ペヤング食べても無感情でいられる説
職場で激辛ペヤングを食べるというだけであるのだが、これが純粋にめちゃくちゃ面白いのである。全体の半分ほどを盛大な前フリに使い、一口ずつ食べるのにつれ、徐々に深刻になっていくその顔は切なさを含みながらもどこか愛おしさがある。真っ白な雪に落とされた鮮血のように赤くなったその唇が美しく、職場の片隅で鼻水と汗を噴き出しながらカメラを自身に向けている格好ははちゃめちゃに面白い。最後の涙を流している姿なんて最高すぎるぜ。
4–独身男性と作る孤独な野菜カレー【料理】
「孤独な独身男性と作る野菜カレー」ではなく、「独身男性と作る孤独な野菜カレー」である。ただただ孤独な野菜カレーを作っている過程が映し出され、誕生した野菜カレーとともに孤独を共有する。しかし、動画はそこで終わらない。寄生獣のミギーのように、鍋に入ったままの野菜カレーを連れて歩き、会社へと持っていくのだ。女性社員に変な目で見られながらも、孤独な野菜カレーを人がいるところで食べようという良心が突き動かし(そんなことはないと思うが)、9食分を会社で食べ終えることに成功する*1。なんとも優しいムービーだ。
5–仕事中にVtuber見てたのがバレた。人生終わった…
ここには悲劇が映されている…。
6–パーカーさんの本、発売日にゲットしました!
登録者40万人越えのYouTuberであるパーカーさんが発売した本を講評している動画。ニヒルな笑みを垣間見せながら充実したレビューをこなしていき、オチとしてメルカリを用意する秀逸さも光っております*2。
7–【疑問】コミュ障の家族コミュニケーションとは
なかなかのディスコミュニケーション具合。しかし、全てが許され、これが通常ですよと言わんばかりに日常に溶け込んでいく。家族というコミュニティの安心感、微笑ましさのようなものが多分に含まれている。帰りの車内で考えていることもいい。
帰りも駅まで送ってくれた。親戚めちゃくちゃ来てたみたいだけど、ワイの代になったら繋がりが切れちゃいそうだよな、と思う。
言葉なんかではない、それ以上の大切な何かを確かに受け取っている。
8–ゆるサラリーマン男性の日常100日間
田中さんの100日間をまとめたもの。黒猫との関係*3、近隣住民への地味な抵抗、公園の体操に参加、会社の人とが挨拶を返してくれるようになる、何の変哲もない何処かにある日常。とても素晴らしい4コマ漫画を見ているようである*4。
9–プロフェッショナル 田中の流儀
動画投稿61本目にして『プロフェッショナル』のパロディ。『【疑問】コミュ障の家族コミュニケーションとは』で、家族の繋がりが途切れてしまうのではないか、と案じていた田中さんであったのだけれど、その思いは心の中でムクムクと成長して、地球の裏側を思いやるほどになっていたようだ。継承のモチーフを“陰”に託して、笑顔を創出しようとしているらしい。
10–残業している先輩の年越しの瞬間を盗撮してみた
10月から3ヶ月ほどあいた久しぶりの動画投稿は先輩の年越しに密着(隠し撮り)するものであった。これも先輩に承諾は取れているのか?と不安になるものであるけど、後半の内容を見る限りでは、程よい関係を築けているようなので、大丈夫なのだろう。撮影の巧みさも細部に宿っているぞ。休憩室で年越しそばを食べている自分自身を映し、先輩のひとりにして安心させることで、撮らないことで撮る以上の先輩の姿を見せることに成功しているし、椅子をモザイク代わりに使うなどにも笑ってしまう。
投稿頻度は落ちているものの、この中のどれかを再生してコスメティック田中との出会いとなればいいなと思います。