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カンテレ『前田穂南が走った、42.195km。』

f:id:nayo422:20240215005306j:image19年ぶりの日本新記録となる「2時間18分59秒」*1をマークした前田穂南。ラスト、広いストライドでタイムを更新しようと地面を蹴る姿に、スポーツにおける美徳の実践を見ることができた。美徳とはマイケル・J・サンデルが提唱した概念であり、「人間が生まれながらにして与えられた能力や資質の限界を受容し、そのなかでより良い成績をめざす、能力や資質を最大限にまで開花させること」であるとされている。カンテレにて放送されたドキュメンタリー『前田穂南が走った、42.195km。』を観た。

本大会は、MGCファイナルチャレンジ対象レースとして実施され、パリ五輪への切符をかけた競走であった。出場権獲得者は、3人中2人がすでに決定しており、残された枠はあとひとつ。まずはMGCファイナルチャレンジ設定記録である「2時間21分41秒」を突破することは絶対条件であるし、その上で日本人1位でゴールすることが求められていたのであった。しかしながら、ずっと「アレ」と濁し続けていた前田穂南の目標がゴール後のインタビューで明らかになったこと、そして、本ドキュメンタリーで「2時間18分00秒を目指していた」ことが公言されるとき、彼女が自らの設定した目標を達成することにだけフォーカスして走っていたことが人々の心を感動させるのである(もちろん、前田穂南以外の選手がそうではないということではない)。それはまさに、スポーツにおける美徳の実践と言っていいと思うのだ。誰かが決めた基準でなく、自らの意志によって決めた戒律に従うこと。酷く苦しい過酷なレースのなか、脚の回転を止めて仕舞えば終わってしまう(終わらせることができる)陸上という競技において、自らの限界に挑戦するその姿に胸を打たれてしまった。カッコいいのだ。また、「走るのが好き」「走らない人生は考えられない」などの言葉の数々は、他者と相対化され得ない自らの運命を見つけているようで、羨望の眼差しを向けてしまう。

日本記録の更新を達成したけど、記録はまだ出ますよ

前田穂南は、日本記録ではなく、自らの限界に対して挑戦している。であるから、日本新記録が達成されてもその先に進んでいくのだ。アスリートの卓越性は我々を魅了し、感動させる。今回のレースを観て、その美しさを改めて認識することができた。

【前田穂南 日本新記録達成】【official】2024 Osaka Women's Marathon full version/第43回 大阪国際女子マラソン - YouTube

*1:日本記録は2時間19分12秒(野口みずき