昨日の今日

KINOUNOKYOU

お笑いとテレビと映画と本と音楽とサッカーと…

アニメ『おおきく振りかぶって』第一期

f:id:opara18892nyny:20200306124815p:image繋がれる手と手。

きらきらひかる青春ライン
僕らは今 走り出すよ
つなぐ想いを夢の先まで

いきものがかり『青春ライン』

おおきく振りかぶって』では何度も「相手をわかろう」「自分をわかってもらおう」という手と手が繋がれるシーンが描かれる。スポーツ科学やメンタルトレーニングを取り入れ、青春という記号を「相手を理解すること」に落とし込み、コミュニケーションの本質までをも描き出した『おおきく振りかぶって』は王道でシンプルな野球アニメだ。

OPのBase Ball Bear『ドラマチック』といきものがかり『青春ライン』がまず素晴らしく、投げられ打たれる白球が描く線こそが“青春”であると断言するように物語をぐいーんと加速させる。主人公・三橋廉は中学時代に祖父が経営する三星学園野球部でエース投手をつとめていたが、チームメイトと心の繋がりを作ることができず、投げたボールは捕手に届く前に相手のバットによって打ち返されてしまうことがほとんどだった。それをチームメイトは三橋の遅い急速が原因だと決めつけ、三橋は「贔屓」でエースをやらせてもらっているんだと疎まれてしまう。そんな中学時代を払拭するためにエスカレーター式の学校から離脱して隣県の西浦高校へと進学することを決心する。そこで捕手・阿部隆也と出会い、投げたボールが見事に相手に届き、そして投げ返されるという喜びを知る。驚異的なコントロールがあれば遅い球であってもストライクをとることができる、それこそが三橋の強みなんだと、個人の固有性を対決にし、関わり合いのアプローチを変えることで繋がりを作ることはできるのだというように阿部がリードしていく。相手を理解するためにはどうすれば良いのか、今作では“手と手を繋ぐこと”がその方法であった。f:id:opara18892nyny:20200306154725p:image相手の手の温度を知る。そして自分の手の温度を分け与える、または相手のを受け取る。その双方向の理解やちょっとした「ナイスピッチー」のかけ声に三橋は特別な“ドラマチック”を感じてしまう。

俺たちは普通だよ。
普通に野球やってるだけ。

主将の花井の言葉が象徴するように、『おおきく振りかぶって』はまさに普通に野球をやっているだけなのだ。試合中のBGMは応援団のブラスのみであることにも、シンプルなものにこそ繋がりの本質は浮き上がるというような一貫性を感じる。“相手がいて自分がいる”それを青春のドラマチックさを受け取ってしまう三橋の視点にとてつもないフレッシュさが宿っている。

おおきく振りかぶって』は心を描くものであるだけに、試合中のリアルな心理描写にも注力している。一球一球の配給や何故ボールにバットが当たらなかったのかを丁寧に描写していく。そのためになかなか物語は進まないのだけれど、それだけに勝利という2文字に確かな説得力を感じることができるのも実感するところだろう。

ときに、個人的なお気に入りキャラクターでいうと、やはり田島がカッコいいと思ってしまう。軟式野球から硬式野球に変わったばかりの1年生だけのチーム西浦高校にとって、飛び抜けた野球センスをもつ田島が勝敗を左右させることが大きいのだけれど、今作では必然性が付与されているために、理不尽に強いキャラクターにならずに楽しめる。飄々と何事もできてしまう田島が1回戦で苦戦し、ヒットを飛ばすことができない。そして最終打席にやっと打ち返し吠える。わかりやすく良い!思ってしまうのだ。

夏の県1回戦で優勝候補・桐青高校を倒し、折り鶴が西浦高校へと渡される。投げて、投げ返される、そして打って、打たれる。それらを通したとき、心的繋がりは相手チームにも伝わり、何にも変え難い青春ラインが描かれる。“普通に野球をする”こと。たったそれだけのことで、コミュニケーションの本質をも描き切ってしまう『おおきく振りかぶって』は絶対的に王道の野球マンガ、アニメである。

そして泥だらけは素晴らしい。

 

関連エントリー

you18892.hatenablog.com