2021年12月31日を持って、およそ28年間の歴史に幕を下ろした下北沢ライブハウスGARAGEで開催された『Our House Welcome Home - さよなら2021 -』に急遽参戦したBase Ball Bearが、かつての小出少年がそうであったように、孤独な魂が救われ、共鳴し、音が鳴り、そしてそれが引き継がれていくというライブハウスへの感謝を込めた美しいステージを披露していた。紅白歌合戦が始まった19時30分を少し過ぎた後、ベボベは薄暗く小さなライブハウスにて『DIARY KEY』で勢いよくスタート。「To alive by your side」と歌われるこの楽曲において、閉店するライブハウスへの別れのフィーリングはまったくもって漂っていない。Base Ball Bearが音を鳴らすかぎり、きっとライブハウスの思いは誰かのすぐ隣で続いていくのだという決意。いつかまた出会う日を切実な願いに込めて。
いつか君に渡せたらいいな
『DIARY KEY』
優しさだけじゃ生きられない
別れを選んだ人もいる
再び僕らは出会うだろう
この長い旅路のどこかで
また会いたいから
さよならなんか いらなかった『SYUUU』
たくさん失う
時がながれゆく
それでも僕は、君を待ってる『short hair』
解散してしまった12月8日というバンドの『グッドバイ』のエッセンスをどうにか継承していきたいと考え、構成をそのまま拝借して作ったという『short hair』を夕日のようなオレンジ色の照明に照らされながら、3人が音を奏でていく。「下北沢ガレージでの思い出深いことと言えば、高校3年生の時だったんですけど、年上のバンドマンの人たちが本当に良くしてくれたんですよ。僕なんて学校に友達いない人間でしたから、学校しんどかったんですけど、ここにいる人が「いいね曲!」とか言ってくれて、ああ、そうか、学校の外に行けばこういう社会があるんだってここで知れた」のだと話す小出裕介から*1、放課後、学校からライブハウスへと架橋され、夕陽に照らされ走る少年のイメージが立ち上がってきやしないか。自分の居場所へと駆ける。
ミュージックビデオにおいても、自転車に乗る本田翼が橋を渡るシーンから始まるのである。学校から逃れるための橋をかけてくれた閉店してしまうライブハウスへ向けて、「それでも僕は、君を待ってる」と歌われる最高の失恋ソングが感動的だ。そして、いつだって「あの日のこと」を引き連れて歌うのだと熱情たっぷりに響かせる。
続けて、「みんなの幸せを願って」と関根が『A HAPPY NEW YEAR』を優しく歌い上げる。
幸せたくさんありますように
違う孤独どうしが
とびきり優しくなれますように『A HAPPY NEW YEAR』
いろんな場所からこのライブハウスにやってきた人々に向けて、その孤独どうしが鳴らされるバンドの音と共鳴し、融解し、やがて結びつき、優しくなれるように、と。終わりではなく始まりであるのだと囁いてあげる。そんな美しい瞬間をすべての17才へ届けてしまおうというベボベの素晴らしさ!!それは今17才である者にだけでなく、かつて17才だった自分やあなたへと向けられているのだ。つまり、すべての17才に。
いつでも飛ばしてよSOS
そのHAND PHONEで君の事に気付いている
人がきっといるから『17才』
そして、ここにきてかつてライブハウスに救われたベボベ(小出裕介)としてではなく、ライブハウスから手を差し伸べる立場にいる者として、「傷ついて痛いかい?」「気付いてほしいのかい?」と優しくそっとその音楽によって招き入れようとする。扉を開く。ライブハウスというこの場所がなくなったとしても、ベボベが音楽を鳴らしている、歌っている限りにおいて、橋はかけられるし、手は差し伸べられるのだ。そうであるから、「さよならは言わなくていいよ」「どっかでまた会えるさ」と力強く宣言する。
さよならは言わなくていいよ
失くしたものにも
どっかでまた会えるのさ
かなしみも連れていくよ
それでいいんだ
終わらない予感は消せない
さよならは言わなくていいよ
失くしたものにも
どっかでまた会えるのさ
かなしみも連れていくよ
それでいいんだ
終わらない予感は消せない
いつでも響いているよ『海へ』
小出裕介、なんたる優しさだろう。しかし、小出自身もその優しさに救われたのであるだろうし、かつて小出を救った人も誰かからそれを引き継いできたのかもしれない。そうして、それがライブハウスという形となって結実しているのかもしれない。そんな継承の過程が音楽であり、ロックであると話す生真面目な思いがドラマチックな結晶となって、また音楽を鳴らし出す。
今日でこの場所は無くなりますけれども…
ガレージでこういうことを言うと、バカだなーみたいな、茶化されるんですけど、僕にとっての音楽とかロックっていうのは「継承」だと思っています。
引き継いでいくことだと思っています。
先人からいろいろと影響を受けましたし、同じ時代を走っていたバンドたちだったりとか、仲間たちだったりとか、そして、今日のこの無くなってしまう場所でのたくさんの思い出、切磋琢磨した人たち、鳴った音楽たち…
そのエッセンスを一滴でも多く…
こういう場所があったということがたとえ忘れ去られたとしても、ここで鳴っていた音に鍛えられた我々みたいなバンドがいて…
魂とか精神とかいったものを引き継いでいきたい。
そのためにもバンドを辞めねえぞ、と思っている次第でございます。
下北沢ガレージへの感謝を込めたステージとして最後に選んだ曲は『ドラマチック』であった。この楽曲がOPに用いられている『おおきく振りかぶって』*2は、中学時代の野球部に居場所がなかった主人公・三橋廉が、エスカレーター式の学校から離脱して隣県の西浦高校へと進学することで、阿部隆也と出会い、キャッチャーに向けて投げたボールが見事に届き、そして、届いたボールが投げ返されることに喜びを感じるものであった。それはまさに小出裕介とも重なるのだろうし、そんなコミュニケーションの美しき場としてのライブハウスを誰もが思い浮かべてしまうだろう。そして、もう何度も言ってるけれどBase Ball Bearが止まらない限り、それはずっとずっと続いていくのだ*3。この場所は無くなってしまうけれど、無くならない…いやしかし無くなるのだ。そんなやるせなさはずっと誰かの心の中で反芻される。でも、今、たった今だけは…
ドラマチックチック
止められそうにない
止めたいと思わない
ありがとう、しか浮かばない
フラッシュバック
笑っている夏ってる
時がチクタク止められそうに
ない
涙が止まらない
いま、君がいて俺がいる風景
思い出に変わってく
また出会えそうで
一度きりのドラマ
さぁ、熱くなれるだけ
熱くなればいい『ドラマチック』