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バカリズム『ノンレムの窓』

f:id:nayo422:20230329015236j:imageバカリズムによる『世にも奇妙な物語』!といった趣きであるSFショートショートドラマ特番『ノンレムの窓』が面白かった。二股交際をするために「ああ、自分が2人いればなあ」という願望によって自分を2人、4人、6人…と増殖させていく第1話は、人間の固有性とは?といった問題を多少なりとも孕みながら進んでいくことが面白い。増殖する自分は同じ人間ではあるものの経験が違うのであった。そのために同じ人間であったとしても、また別の固有性が浮かび上がる。主人公は最終的に、ひとりの人間として、ひとりの相手を愛そうと思い至ることになる。それは相手の固有性をも認める行為であった。しかし、そのときになって愛する相手もまた複数に増殖していた誰かのコピーであったことが明らかになる。ラスト、明かりに照らされまっすぐに伸びた橋の上で佇む風間俊介の後ろ姿がいい。

妻から使っていない有料動画サイト「プレミアムシート」の解約を促されたのだけれど、その解約仕方があまりに面倒であって、「本当に解約しますか?」「私はロボットではありません」という文字が何度も画面に飛び出してきたり、ついには奇妙な解約するための無慈悲なゲームへと参加する羽目になる第2話では、現代の手軽で便利なサブスクからの解約の面倒くささをくぐり抜けようとする小市民然とした佇まいの野間口徹が良い。袋小路に誘われ、結局「スーパープレミアムシート」なるものに加入してしまうラストも人間の性であるのだろうか。ニヤッと笑い、扉を開けるどこか合理的な判断を下しているとでも言いたげな顔が面白い。

お客が自由にカスタマイズできる人気のハーピーズカフェで働く松岡茉優が「ショート・ソイオールミルク・アドリストレットショット・ノンシロップ・フルリーフ・チャイティーラテ…」などの過剰に長い、呪文のようなカスタマイズメニューに悩まされる第3話もまた現代の過剰さを表している物語のようである。夢なのかそうでないのか、その狭間でこの余白を塗りつぶしてくる現代の荒波へ駆り出すためのひと休みの隙間に入り込んでくるこの3つのショートショートもまた私たちを少しだけ撹乱し、奇妙な世界の延長戦を始めるのだ。