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リー・ワネル『透明人間』

The Invisible Man - Official Trailer [HD] - YouTube ジョーダン・ピールゲット・アウト』『US』、クリストファー・ランドン『ハッピー・デス・デイ』などのブラムハウス・プロダクションズが新たに放つ傑作。ゆっくりスライドするカメラと気配を全身で感じるための音響設計。そもそも透明人間とは?という問いに現代的な答えとして十分すぎるものを提示してくれただけでも一見の価値あり*1。それは立場や権力の優劣による現代性をも持ち合わせている。そして、透明スーツのスタイリッシュさと不気味な気持ち悪さのバランスもいい。カットを減らして、カメラを横に移動させる時間の経過。そこにいるのか、いないのか、と思わせてくれる地道な映像表現、または、“いないのにいるかもしれない”というエリザベス・モスの顔は抜群。相手の顔を一方的に見ること。つまりは、見る/見られる、この密接な関係を“透明人間”というものを使った一方の視線の消去によって映画的快楽を与えてくれている。そしてそれゆえの危うさも映し出すのだ。

人の顔を物として見るということは、映画という表現ジャンルの何かしら根源的な欲望に関わっているという気がするんですよね。どういうことかと言うと、映画とは、何かを見つめるために発明された––カメラは何かを見つめるためにあるわけですが、できることなら、見つめ返されることなく見つめたいわけです。我々の中にある、そういう窃視願望と映画は密接に関わっています。

塩田明彦『映画術 その演出はなぜ心をつかむのか』

これは塩田明彦アルフレッド・ヒッチコック『サイコ』を語ったものであるのだけど、本作もまた、顔を見るということの欲望、その危うさを巧みに描いているのである。そうであるから、後半の見る/見られる関係の反転も気持ちがいい。見るということは見られることであるという力強いその存在へ向けられる視線。それと同時に心神喪失状態なのではないかという可能性を残した脚本に揺らいでしまう観客への皮肉も強烈*2。透明人間スーツという我々の延長線上にある、今までで最も現実性のあるところが、この見ることへの危うさの説得力としてしっかりと機能しているのも秀逸である。

ゲット・アウト』『US』などアイロニーを含めたブラムハウス・プロダクションズの色が確実に浸透していることとその質の良さに喜びながら、次回作を期待しようと思う。

透明人間 (字幕版)

透明人間 (字幕版)

  • エリザベス・モス
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*1:太田上田#43】透明人間について語りましたhttps://youtu.be/j5zRKMWPWyA

*2:しかし、ラストでどうだかわからなくなるという、微妙な投げっぱなし