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『ABCお笑いグランプリ2020』-ビスケットブラザーズ

f:id:You1999:20200717122110p:image第41回『ABCお笑いグランプリ』で惜しくもファイナルステージへは上がることができなかったビスケットブラザーズ。しかし、彼らのコントはやはり素晴らしかった。

素晴らしいね…。本当に良質な映画を観た感じ。

というスピードワゴン小沢のコメントが、すべてを説明しているのだけど、まさにアリ・アスター『ミッドサマー』のように、ホラーとコメディを巧みに行き来する映画的なコントだった。一歩踏み出せばホラーになり、後退ればコメディになるといったようなことを繰り返す反復運動が、原田が仕掛けるトラップと、きんのリアクションのやりとりによって行われる。コメディとホラーを分断する線上の行き来。観ている人は、たちまち魅了されるのだ。

このコントの導入部分である、きんが友達の家に入り、“鍵”を拾う場面。正確にいうならば、拾わされている場面。コント開始からわずか45秒で、これから変態的なショーを見せてあげましょう、という目配せがあるのだ。意図しているかどうかはわからないのだけれど、“鍵”というキーワードから、谷崎潤一郎『鍵』のシーンが浮かび上がってきてしまう。

ドキドキしている人を見ると気分が高揚する男から、怖いような面白いような変態プレイが次々に畳みかけられる。母親だと思っていたら父親。ケーキだと思ったらおはぎ。電話を貸したが、実際にはケースだけ。雨が降ってきたと思ったら、CDラジカセからの雨のサウンドだった。さらには、ここは友達の家ではなく、全く知らない他人の家であることも明らかになるのだ。リズムよく投げられるいくつもの奇妙。

俺、外で悪さしたりせえへんねん。偶然、家に入って来た人にイタズラする蟻地獄タイプの変態

という恐ろしいパワーワードまで繰り出され、変態コントはフィニッシュ。ビスケットブラザーズの世界観はホラーで、変態で、そして、めちゃくちゃにコメディなのだ。このスタイルでキングオブコントの座に君臨してほしい、と期待せずにいられない。

最後に、谷崎潤一郎『鍵』的にいくのであれば、きんが全てをわかっていて、原田に合わせていた、という極上の変態が用意されていれば痺れていたかもしれない。一方的な関係の反転。原田が崩れ落ちる姿を観たくてたまらないのである。