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羊文学 Tour 2023『if i were an angel,』

f:id:nayo422:20230923003758j:image「エンディング」とは、物語の結末のことである。そして、それにはハッピーエンド、グッドエンド、トゥルーエンド、バッドエンド、デッドエンド、ノーマルエンド......などたくさんの種類がある。物語はいつか終わり、世界は閉じていく。しかし、そのエンディングは画一的なものではないのである。人間はいつか死ぬ。その運命には逆らえないのであって、ゆっくりと、しかし、着実に到来するその終わりに私たちは苦悩し、それでもいつか終わりを迎える物語を生きなければならない。終わり方は選べるのだろうか。しかし、とにかく物語は終わるのである。それだけが問題なのだ。『エンディング』が静かに羊文学のステージの始まりを告げ、TVアニメ『呪術廻戦』第2期のエンディング曲でもある『more than words』の演奏とともに、紗幕が開かれると、会場から歓声が上がり、羊文学の背後のスクリーンには、人工知能が思い描く「曖昧なままの天使たち」が映し出される。私たちは、言語によって、世界を共有し、認識し、承認する。しかし、そのためにその外側の世界を想像することは困難になる。言葉で説明のつかない、認識できないからこそ、異なる世界は存在しないのだとは言い切れなくなってくる。ここではないどこかは存在するだろうか。エンディングは複数に開かれているだろうか。エンディングは画一的ではないが、自由意志によるその選択肢は与えられているのだろうか。もはや運命論的にエンディングは決まっているのだろうか。他者を救うことは難しい。誰かに言葉をかけることは、誰かに言葉をかけないことでもある。誰かを承認することは、誰かを承認しないことでもある。グルグルと何もできないまま、エンディングに向かっていく。

天使が人間世界の市井の人々を見つめた物語として、ヴィム・ヴェンダースベルリン・天使の詩』という映画がある。サラリーマン風の衣装に身を包んだ天使は、下界を見つめながら、「永遠の命を放棄して、人間になりたいのだ」と打ち明ける。人間に恋をしたのだ、と。「エンディング」が欲しいのだ、と。幻であるのではなく、有限な身体を手に入れ、愛する人と共に終わりを迎えたいのだ、と。

ある時
気づけば僕らは
終わりを望む

『エンディング』

人間となった天使は愛を手に入れ、そして、市井の人々のなかには天使がたくさんいることを知っていく。映画のエンディングでは、物語がつづくことが示唆され、明確なエンディングは明かされず、可能性が開かれたままに終わる。

羊文学の音楽と同期するように、スクリーンの天使はぐにゃぐにゃと形を変化させ、曖昧なままに群衆のなかに紛れていく。誰もが天使であったことを忘れ、生活に溶け込んでゆく。有限な存在であることの喜びや『ベルリン・天使の詩』における天使が享受した世界の煌めきを忘れていく。世界はコントロールできるのだと誤謬する。

きこえるかい きこえるかい

『人間だった』

塩塚モエカの囁きが天から降り注ぐ。私たちは人間だったことを思い出す。人類は世界の歴史においてしょせん副産物にすぎないのであるけれど、なのに世界を壊し、争い、絶望をつくりだし、そして、悲しむ。軽やかながらも力強い『FOOL』(愚か者)の演奏の後、トークを挟んで新曲をふたつ披露。新曲のひとつは『more than words』の製作のついでに“できてしまった”楽曲であるらしい。一石二鳥だと塩塚モエカは笑う。

そして、『祈り』。今回のライブ前半が天使界から人間という下向き↓の構造であったならば、ライブ中盤は、地上から神的なものに対する上向き↑の図式になってくる。祈りという下から上への垂直関係を描き出し、『hopi』『マヨイガ』という不安と安心を内包する楽曲が世界を構成する。夢のような幻想空間のなかで、『天国』にまで到達する。そして、それと対比させるようにパーティーに遅れてしまうという卑近な人間世界の思いを歌った後、『パーティーすぐそこ』や最終の眩さと困難さを歌った『永遠のブルー』を天使が見つめる。

終焉へと向かう地球を歌った『OOPARTS』、平家滅亡を描いたアニメ『平家物語』の主題歌である『光るとき』、見えないものの存在へと思いを馳せる『ghost』などに楽曲群を集めたステージラストは、世界や人間のエンディングを示唆するものとして閉じてゆく。アンコールは、『踊らない』『金色』ときて、『あいまいでいいよ』で締める。「エンディング」はやってこない、のである。私たちに必ずやってくる。しかし、今はそのときではない。if i were an angel,まだまだ世界を諦めるべきではないのだ。

羊文学 Tour 2023『if i were an angel,』at Zepp Hanedaのセミファイナル。平日開催ということで開演時間ギリギリになってしまうことを考慮し、2階席のチケットを確保して、安心安全の着席での参加となりました。今回の羊文学ワンマン。『呪術廻戦』だったり、フェスにも多数参加していたりするから若いひとが多いような気がしたけれど(MCトークのときもヤジ?声援?がとんだりしていた)、やっぱり羊文学のライブは老若男女いろんなひとがいるなあとは思った。『あざとくて何が悪いの?』にも使われたり、歌番組に出演するようにもなって、これから羊文学はどんなバンドになっていくのでしょうね。