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羊文学『まほうがつかえる2022』中野サンプラザ公演

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恋人たちは今もまだ
お互いの気も知らないで
よくある歌のロマンスの影
追いかけるようにしてすれ違う

羊文学『あいまいでいいよ』

街に煌めく電飾のような照明と吹雪のように会場を包み込む猛々しい轟音。クリスマスが近づいてきた12月11日、羊文学『まほうがつかえる2022』中野サンプラザ公演に行ってきた(「私たちがクリスマスといったらそこはもうクリスマスなんです」とMCの中で話していた)。0列という素晴らしいクリスマスプレゼントをもらってしまったので、歌う塩塚モエカの顔がしわくちゃになるのまで見えてしまうくらいに目の前だったのも嬉しい。

今回のライブは2部構成となっていて、第1部、ピンクの衣装で身を包んだ羊文学は、いつものオープニングナンバー『あいまいでいいよ』でライブをスタートさせ、クリスマスの街中ですれ違う人々の姿を描き出していく。その後は、『天国』と『マフラー』で天使の輪とマフラーの輪っかなどによって、この世からの消失、空洞を意識させたり、『おまじない』*1『踊らない』『くだらない』という「ない」がタイトルにある楽曲を集めていたりと、どこか「喪失感」がテーマとしてあったように思えた。「学校」などの何か狭い世界で苦しんでいる誰かへ向けて、轟音による「まほう」で耳を塞ぎ、『変身』『花びら』『ソーダ水』が力強く、美しく、感動的に染み渡らせていく。ピンク色の衣装から、

ピンクが似合う女の子って、きっと、勝っている。すでに、何かに。

朝井リョウ『桐島、部活辞めるってよ』p64

という文章を思い出していたので、「学校」というモチーフを想起してしまったのかもしれないのだけれど、第1部のラスト曲が『マフラー』なのであり、

この街を出てゆくときは

と狭い世界から脱するシーンにおいて幕が締められるのは、2部構成ライブ第1章の終わり方として素晴らしい余韻を残していた。

15分の休憩のあと、第2部の幕が開ける。塩塚モエカと河西ゆりかが真っ赤な可愛い衣装で登場。『平家物語』のコンセプト色が「赤」であったから衣装も「赤」にしてみたと言及していたのだけど、まさに「血」をも意識させるような壮大な『光るとき』『マヨイガ』が第2部始めに立て続けに演奏されて、第1部の卑近な印象とは違うテーマと、また羊文学というバンド自体の変化をも示されているようであった。『マヨイガ』は本当にじんわりと心に響く。

「お客様投票第1位の曲」だけれど、なかなかライブでやることのないという『恋なんて』も披露してくれた。

君が僕に嘘をついた日

『恋なんて』

一体さ、僕は何を
信じたらいいのかわからないよ

『キャロル』

映画にうつってた
ハッピーエンドは
あたりまえだけど
つくり話だって

『Step』

雄弁な言説にのせられて

『OOPARTS』

第2部の後半のテーマは「嘘」「虚構」「不信感」などであったように思う。そして、問いかけられる「ぼくはどうしたらいい?」(1999)という羊文学がクリスマスのアンセムになることを願った楽曲に繋がることで締めくくられるのもまた第1部のラスト同様に美しいなと思った。

アンコールでは、壮大な音色によって宇宙の広大さ、そして、世界の美しさを押し広げていく『ワンダー』、迷い戸惑いながらも確かに日々は続いていくのであり、そしてその在り方があまりに卑小であることを歌った『生活』が続く。ラストは『涙の行方』。塩塚が会場に手拍子を促し、涙の行方が明るい方へと少しずつ向かうように、軽やかに、楽しげに会場に一体感を付与していく。「私は私でもうすぐ誰かの歴史になっていく/寂しさは薄れてく/それもいつかあなたの笑顔になってゆけ」というリリックは『マヨイガ』や『光るとき』のモチーフをも感じされるものがあり、歴史の中で生きていく人間の継承の物語として美しさを思ってしまう。煌めく電飾と吹雪のように猛々しい轟音で包み魔法をかけ、祈る姿が美しかった。誰もが幸福でいられるような世界、クリスマスであるといいですね。

ときに、羊文学が昨年の『まほうがつかえる』にて『Happy Xmas(War is Over)』をカヴァーしていたので、個人的にはそれを期待していたのだけれど(もしくはまた別の楽曲カヴァーなど)、今回は無かったので少しだけ残念でありました。また来年に期待しましょう。

*1:黄色に輝くミラーボールと星屑のような照明が美しかった