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LE SSERAFIM (르세라핌) Documentary『The World Is My Oyster』

f:id:You1999:20220918050611j:imageデビューメンバーが確定せず選考が続けられるなか、候補者たちのハードなレッスンは続けられていく。刻一刻とデビューは迫っているのだ。IZ*ONE出身のSAKURAとCHAEWON、『PRODUCE 48』に参加していたYUNJINが確定的となるなか、バレエ留学先から挑んだオンラインオーディションに見事合格し、メンバーの1人として抜擢されたKAZUHAによる影響を受けたのか、HARUKAがグループから去ることになってしまう。その後、最年少EUNCHAEも加入することになるわけだけれど、エピソード01においてHARUKAの退場というトピックは強く印象に残るものであるように思える。しかし、私たちはこれよりもはるかに複雑であり、極めて重要な退場があったことを知っている。まったくの初見者であれば特段何も思わないのかもしれないのだけれど、このドキュメンタリーが明らかに不自然なトリミングが施されたビデオであることは認めざるを得ない。“初めからいなかったのだ”とする運営の編集とは裏腹にLE SSERAFIMのデビュー曲『FEARLESS』は“いなかった”ことにされてしまった彼女による宣言「一番高いところへ私は届きたい」から始まっている。LE SSERAFIM FEARLESS OFFICIAL M/V - YouTube LE SSERAFIMにとってトリミングできない最も重要なこの宣言はこの先もずっとインターネット上においても、グループにおいても鎮座することになるわけである。このドキュメンタリーから排除された退場シーンによって、「THE WORLD IS MY OYSTER」というLE SSERAFIMの強烈な欲望は儚くも否定されているように思える。「世界はわたしの思いのまま」にはならないのである。しかし、それでも「世界はわたしの思いのまま」と切実に欲望するのがLE SSERAFIMの重要なモチーフになり得るのだろう。

グループ名「LE SSERAFIM」とは、世間からの視線に惑わされずに恐れることなく、前に進んでいくという強い意志が込められた「IM FEARLESS」をアナグラムさせたものである。いつのまにか品行方正であることを求められてしまうアイドルという存在にとって、人間としての欲望(三大欲求)があることの宣言は切実であり、しっかりと表明しておかなければならないことであるのだと思う。そしてまた、それはもちろん承認にまつわる欲求も含むことになるのだ。しかし、欲望というテーマにおいて、承認欲求と自己承認欲求のアンビバレントな関係性をも両立しながら受け入れざるを得ないという難しさも残されることになる。「世間からの視線に惑わされず、恐れることなく前に進んでいく強い意志」という自己承認による世界の頂への挑戦と、他者から承認されなければ世界の頂へは登れないというアイドルシステムの矛盾がぶつかる。であるからして、これはエピソード03における出来事のように嫌悪感漂うシーンとして顕在化してしまう。暗黙の了解としてみんなが飲み込んでいるこの矛盾をドキュメンタリーに映し出す必要性は確かにあったのだろうと思う。アイドルというシステムにおいては、「THE WORLD IS MY OYSTER」には決してならないのだろうか。ならないのだ、と言ってしまえばもはやそれまでなのだろうけれど、その矛盾を抱えた上で、LE SSERAFIMはその欲望を宣言している。私たちがそれを承認することは関係があるのか、たとえファンであってもそんな他者からの眼差しには惑わされず突き進んでいくのか。これは見られる側だけでなく、見る側の責任も求められるだろう。

2022年10月17日、SOURCE MUSICからリリースされた2枚目のミニアルバム『ANTIFRAGILE』はこの矛盾と対峙しながらも強さを押し出していく楽曲であったのだけれど、しかし、LE SSERAFIM (르세라핌) Documentary 『The World Is My Oyster』の最終エピソード04のラストシーンは涙が溢れ出る弱さをも感じさせるシーンで終えられているように、「強さ」にも複層性が付与され始めている。『Impurities』がそれをよく表しているだろうし、『weverse magazine』『ANTIFRAGILE』カムバック・インタビューでSAKURAはこう答えている。

文字通り「ANTIFRAGILE」ですね。足りないところを見せることで、逆説的により強く自由になるような。
SAKURA:人間だから当然ミスもしますし、上手にできないこともありますよね。私も長い間、活動してきただけに、「あの時は私が上手にできなかったな」と思う瞬間があります。そういう瞬間を受け入れることが私の「ANTIFRAGILE」ではないかと思います。誰でもミスは振り返りたくないし、忘れたいものじゃないですか。ですが、それも自分が歩んできた道だから、すべての瞬間を認めて愛さなければならないと思います。小さな成功とミスが積み重なって、今の私がいるわけですから。

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ドキュメンタリーラスト、ユンジンの産声のような泣き声がLE SSERAFIMの誕生を告げる。まだ生まれたばかりなのである。「強い欲望」が宣言されるLE SSERAFIMの楽曲とは違って、このグループの本当の魅力は、5人がわちゃわちゃとキュートに戯れる様子であることも事実である。これからどのようなコンセプトへと成長していくのか、どのようにして「一番高いところ」へと登っていくのか、注目したい。