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オリヴィア・ワイルド『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』


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傑作。製作総指揮にウィル・フェレルとアダム・マッケイが名を連ね、オリヴィア・ワイルドの映画監督デビュー作。卒業前夜の一晩を描いた青春コメディだ。基本的には『スーパーバッド』を下敷きにしていながらも(ジョナ・ヒルの妹、ふたり、車でのお迎え、ゲボ、パーティへの参加、逃亡、ふたりの友情etc…)、人種、ジェンダーセクシャリティなどいろんな面で全体的にアップデートされている。脚本を練り上げていくなかでエイミーのポジションを位置づけを変更することによって、これまでの青春ムービーよりもさらに良くしようという気概がみえるところもいい。手数と速さ。既成曲を大量に使用しての推進力と台詞とギャグの応酬によって、テンポよくガンガン進めていく。前半では正直もしかしたらノれないかもしれない…と思っていたのだけども、好みじゃないギャグのすぐ次にはつい笑ってしまうのがきて、どんどんその笑いが増えつつ真ん中あたりまできてしまうと、ああ、好きな映画だ、と完全にノれてしまっているという、まさに『スーパーバッド』的な面白さ!そこに卑屈な精神がないのがいい。

しかし、この畳みかけるような物語だけがこの映画の面白さではない。裏テーマとして忍ばせてある『小悪魔はなぜモテる?!(原題: Easy A)』を組み合わせてあることが抜群に効いているのだ*1アナベル(トリプルA)のAもここからきている通り、エマ・ストーンへのレッテルの貼り付け、それを10年分アップデートさせて、理解しているという勘違いからなる理解してなさ、理解しているつもりになれてしまうといったことから生まれるレッテルの貼り付けや固定観念ができあがってしまうことを映し出しているのだ。お目当てのパーティーが開催されている場所を探すふたり。手にはスマートフォンが握られている。このアイテムはとっても便利だ。もちろん電話はできるし、わからないことがあれば調べられるし、言葉を吹きかければ録音メモしてくれるし、動画も観れる(アダルトビデオだって簡単に観れてしまう)のだし、誰かの近況だって知ることもできてしまうという優れもの。こうなるとみんなある程度のことはわかっているようになって、多様性みたいなものが簡単に受け入れられるようになる。それはもちろんとても素晴らしいことでもあるのだけれど、そんな誰もが理解したつもりになれることによって、「あー、それはあれね」とその人を見つめるというよりもある属性へと押しやるということが容易になってしまうこともある。より良い社会へと向かいつつもなんだか密度のない方向へと進んでいってしまう、そのむず痒さ。

パーティー会場への手がかりを聞き出すためにピザ屋デリバリーを襲撃したときに、エイミーは車内に携帯を置き忘れてしまい、しかもモリーの充電も2%となってしまう(ポルノ動画を見すぎたために)。そこで「ここが第一部の句切れ目ですよー」と宣言するかのように、最後の電話をかけ終えたところで充電が切れると、これはすなわち簡単に知れること、そして、理解したつもりになっていたことを断ち切るものにもなるのである。携帯を手放したそこからのパーティー会場では、なによりも対話することが描かれていく。誰かが誰かを目で追いかけたり、歌を歌ったり、水中撮影も用いてそこでの情報量はとっても多い。「え!そんな一面があったの!」ということもあれば、想いは届かないのだ…ということがはっきりとわかってしまうこともあるかもしれない。そんな他者への理解が広がっていくことによって、ふたりの関係もより強固になっていく。ケンカという過程を経て、「やっぱり私たちの関係って特別だ」という確認がなされる。モリーアナベルのシーンも最高なのです。

モリー「今までごめんね」

アナベル「イェールでは“トリプルA”はやめて、本名で呼ばれたい」

モリー「もちろんだよ アナベル

アナベル「今はいいから」

モリー「不自然だった」

アナベル「寒すぎ」

モリーアナベルの隣、後ろではなく助手席に座り、同じ方向、景色を見つめ、ハンドルをアナベルに任せたうえでの対話。照れくさそうに笑うふたりがキュートで最高!そのあと残りの上映時間20分はもうまさに爆走。そのスピードのままに、オリヴィア・ワイルドの第2作目も最高なものとなることを祈りながら待望している。

ここからは完全にどうでもいい話なんだけれど、アメリカ高校生のパーティー文化が日本になくてほんとに良かったなと思うし*2、この映画にも当然、普通に受験もうまくいかなかったやつもいるだろうし、パーティーだる…ということで帰っちゃうやつもいるだろうし、はちゃめちゃに楽しいパーティーの後でみんながみんな行儀良く片付けをしているとは思えないので、「おい、あいつ汚すだけ汚して何にもしないで帰りやがったよ…」という不満の声とかもあるんだろうし、楽しくなかったけども片付けはちゃんとやっている偉い子もいるだろうし、ブックスマート卒業式で興奮しているのを冷めて見ているやつもいるだろうし、とこの映画には映らなかった誰かのことを考えると私はそれだけで青春映画を観る楽しみというのを満喫できるのですが、どうでしょうか。私とかだったら仲の良いやつ5〜6人くらいで誰かの家でウイイレ大会したり、それこそ『スーパーバッド』を観てたりするんだろうなあとか考えていたら、なんだかムクムクと楽しくなってた。ときに私はライアンが何故だかとても好き!最初の登場シーンからめちゃカッコよくないですか?


エイミーの恋の行方は? 『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』本編映像

 

*1:とにかく『ブックスマート』にはエマ・ストーンの残像が随所に散りばめられている

*2:見てる分にはめちゃ楽しい