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三浦糀『アオのハコ』

f:id:You1999:20201212182742j:image週刊少年ジャンプ(35)』2020年8月17日号の読切作品、三浦糀『アオのハコ』がとってもいい。『チェンソーマン』を追いかけて久しぶりに週刊少年ジャンプを読んでいたら出会ってしまったのだ。目当てであるチェンソーマンの前に置いている箱をパカっと開けると瑞々しく爽やかな青春ストーリーが飛び出してきたのである。この読み切りに何か特別な箇所があるのかというとそういうこともないのだけれども、ありがちなストーリーでもテンポよく読み進められてしまうのは、そこに実力を伴った確かな筆致があるからでしょう。是非とも新連載へと回していただきたい佳作である。『アオのハコ』、まずもって絵が上手いし、どこか『あひるの空』リスペクトを持った空気感はスーッと心に馴染んでくる。『あひるの空』の青春パートをうまく抜き出してシンプルでいて、しかし、しっかりと強度のあるストーリーテリングが丁寧に展開されている。どうやら作者はマガジンで連載経験があるひとらしいので、それも何か関係あるのかしらと思う。

週刊少年ジャンプ(35) 2020年 8/17 号 [雑誌]

週刊少年ジャンプ(35) 2020年 8/17 号 [雑誌]

  • 発売日: 2020/08/03
  • メディア: 雑誌
 

物語はあまりにもベタである。毎日、早朝の体育館にやってくるバレー部2年・猪股大喜は同じく早朝にやってくるバスケ部3年・鹿野千夏に恋をしている。目標に向かって努力しながらも互いに存在を意識しているという何ともないし、ありきたりな物語の導入なのだけれど、本当にキュンとくるとしか言いようがないエピソードを集めたような、車谷空が薮内円に向ける憧れをギュッと凝縮させて、簡潔に読み切りとして成立させている良さ。しかも、スポーツシーンでの重心の移動をしっかりと感じさせるドリブルやレシーブの描き方、バッシュなどの細部にあたっても抜かりがないので、なかなか良いものを読んでいると思わせてくれる。

向ける/向けられる視線とその交わらなさが、あるときを境にグッと近づいたり、アクセントになるポカリの印象的なシーン、名前を知られていることがわかるシーンなんていうのもとても良い。

千夏「またね、大喜くん」

大喜「なんで!名前っ」

千夏「知ってるよ、毎朝見かけてるし」

また視線や言葉によって起こってしまう青春ドラマとしてのスレ違いや勘違いも忍ばせてあり、それが物語を押し進めていくことなどプロットの組み立ても短い読み切り作品としての完成度を高めている、などなど細部の充足に感服してしまう。なにわともあれ、爽やか過多なこの読み切りに魅了されてしまうこと必至なので(いや、単純にこの私が先輩のことを好きになってしまっているのだと思う)、ぜひとも読んでみてください。ジャンプ公式のボイスコミックにて公開されています。


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