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アニメ『おおきく振りかぶって』第一話〜第七話

f:id:opara18892nyny:20200214234331p:image青い空と緑の芝と茶色い土、その真ん中で白いボールが弧を描く。青春の匂いがぷんぷんと漂い、Base Ball BearのOP曲『ドラマチック』が爽快なストレートを叩き込む。

時がチクタク
止められそうにない
涙が止まらない
また出会えそうで 一度きりのドラマ
さあ、熱くなれるだけ 熱くなればいい

Base Ball Bear『ドラマチック』

青春の青さによって心までブルーに染められた三橋廉は「俺なんか…」が口癖の極端に弱虫な少年だ。祖父の経営する群馬県三星学園野球部でエース投手だったが、球速があまりに遅いために、チームメイトからは「贔屓」でエースをやらせてもらっているんだと疎まれてしまう。そんな中学時代の思い出を拭い去るために、エスカレーター式の学校から離脱して、隣の県の西浦高校へと進学することを決心する。そして、捕手・阿部隆也と高校で出会い、バッテリーを組むことで、球を投げる、そして捕ってもらえるという野球における根源的な喜びを見出していく。投げた球は決して投げっぱなしになることなく相手に届き、やがてそれは自分のもとへと投げ返される。そんなコミュニケーションの本質に注力する『おおきく振りかぶって』であるから、パワー溢れるど速球のボールを放らず、相手の要求するところに、驚異的なコントロールでもって三橋は投げ込む。相手と自分をつなぐボールが描く直線、それを阻んでくるバットをかわすために阿部は相手の心情、仕草からあらゆることを読み取るのである。バッターは今何を考えているのか、投手は何を、自分は何を。一つひとつの心理描写を丁寧に積み上げていくのが『おお振り』の最大の魅力である。そうだから、たとえ打ち返されてしまったとしても、そこには絶対的に、心の繋がりが生じる。会場のすべての人が、自分の心と相手の心を内側を考え、そして言葉に紡ぎ出された「ナイスピッチー」や「ナイバッチー」は真っ白なボールがグラウンドを駆け巡った心的コミュニケーションであり、青春のかたまりだ。ちょっと前まで全く知らないもの同士だったのに、いとも簡単にこんなにも汗臭く青く、素晴らしい何かが出来上がってしまう。それはボール投げているからでなく、バットを振っているからでなく、相手の心の内をを想像しているからである。この相手を認める、自分が認められるという繋がりを野球にうまく落とし込んでゆく『おおきく振りかぶって』の丁寧で緻密な心の読み合いはとてもスマートであり、新鮮である。そして、相手にボール(コミュニケーションを通して自分の思いを)を届けたいために、おおきく振りかぶった三橋のボールは少し浮く。

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そうだ。「打たれるかも、だけど、びびんな」って言われたんだ。こわい打者となら、今までに何度だって対戦してる。
いつもひとりでびびりまくってた。
今は…今は…ひとりじゃない!!

西浦高校に進学した三橋廉は、三星学園野球部と練習試合をすることになる。かつての同級生たちは三橋の球威のなさにばかり注目していたが、努力によって磨かれた三橋のコントロールの素晴らしさを、試合を通して認識させられる。その試合終了後、かつての同級生たちは三橋に謝るが、「いいよ」「大丈夫だよ」と返すのではない。ボールによる心的コミュニケーションは仲間だけでなく、相手チームをもつなぐ。野球の試合で裂かれてしまった関係は、野球によってしか再生できないのであるから、またここに戻ってくることが重要であることを示唆するのだ。そんな力強さも『おおきく振りかぶって』なのである。

また、試合しよう。
いや…して…ください…。