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イチヒ『廃バスに住む』

f:id:You1999:20220821182540j:imageComicWalkerで連載されているイチヒ『廃バスに住む』が面白い。現在、単行本は2巻まで刊行されていて、ComicWalkerのサイトに飛べば5話くらいまでは無料で読むことができますので、試し読みをぜひ。

マンションの水道管が破裂し、部屋の中が水浸しになってしまったために、修理と復旧する間の数週間を廃バスで凌ぐことにした女性教師・雨森先生がマイペースに天然に、仕事やプライベートを心地良く過ごしていくのに読みながら温かい気持ちになれる。柔らかな光が窓外から差し込むカットがふんだん取り入れられているのも本作の暖かな心地よさを表象するためのアイデアだろうか。ぼんやり柔らかな光が抜群なのだ。また、バスという縦長のショットも実に映えている。

第1話、ボー…と寝ぼけ眼で起きて、シャツを着て、顔を洗い、お化粧をして、ヒールを履き、カンカンと音を立てながら階段を降りる。ふっ、と飛び出し、ンーー…と伸びをしながら上空からとらえたショットの気持ちよさ。そして、「いい日になりそうな予感」と独りごちたところで、しかし、その上空からの眼差しはガラスのものであって、手に持っていたクロワッサンをバサッと取られてしまう、という一連の流れもとても自然でおもしろい。

この廃バスはいつかの子どもたちの“ひみつきち”であったようで、テッチャンをリーダーに、ゆうじ、シノ、オオヤというメンバーの名前が書かれた掲示板も置いてあったりする。そこに雨森はづきが、はづき(仮)と書き足すと、廃バスはそこに停車したままで、ゆっくりと地域を巡回するという任務を遂行し始める。同僚といっしょにご飯を食べたり、夜のコンビニで買い食いしたり、誰かが乗って、誰かが降りて、たまたま同じ車両に乗り合わせた人々との交流が幸福感満載で描かれている。学校というほとんど軟禁状態の空間から地域を繋ぐ足となっていた廃バスが“ひみつきち”となって、また人と人を繋いでいく。学校の外側の風景をやわらかなタッチで描き、ここではないどこかへと連れ出してくれる。しかし、あくまでとバスは決められた地域を出ずに巡回するものであり、その範囲は限られている。雨森先生と生徒たちの関係性がどう発展していくのだろうか。

15分ものとして今にもアニメ化されそうな作品であるのだけれど、まずは光の柔らかなタッチや雨森先生の天然なほんわかな奇行とぼんやりとした視線のどこか官能的でドキッとする描き込みを堪能してみてください。おすすめ!