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くるり結成25周年記念『くるりの25回転』東京公演

f:id:You1999:20220211220135j:imageくるり結成25周年記念『くるりの25回転』東京公演を目撃しました。はじめての東京ガーデンシアター。本当に素晴らしいステージだった。オミクロン株による感染者数は増えていて、中止や延期になっているライブがありながらも、途中に換気の時間などを設けることによって無事に開催してくれました。こんなときだからこそ、この世界のどこかで音が鳴らされているという事実が必要なのだ。昨年の『FUJIROCK EXPRESS '21』に引き続いて、目の前にある観客、そして遠くの誰かの心を支える音楽であったように思う。

未来のことを話したい
いつでも愛ある明日を信じていたい

『ランチ』

くるり結成25周年記念『くるりの25回転』東京公演は微笑みに包まれる暖かい部屋のなかで未来を育んでいくささやかな楽曲から始まった。誰かへと橋をかけるように『虹』を歌い、そっと心に侵入していく。「希望と云う名の棒グラフと絶望記す」「僕等は何にもしない」「何の夢かは思い出せないよ」という独白、呟き、溜息、苦悩、困惑、混乱、諦め。形を持たない心象が『惑星づくり』の音像の中で漂い、『ばらの花』へと繋がっていく。誰もが傷ついていた。もうそろそろ歩き出してもいいころなんじゃないか、と。

安心な僕らは旅に出ようぜ
思い切り泣いたり笑ったりしようぜ

『ばらの花』

こんなにも悩ましい僕らも
歩き続ける
歩き続ける
つまらない日々を小さな鉢に
すりつけても減りはしない
少し淋しくなるだけ
ハローもグッバイもサンキューも
言わなくなって
こんなにもすれ違って
それぞれに歩いてゆく

ワンダーフォーゲル

いつだって僕らは誰にも邪魔されず
本当のあなたを本当の言葉を
知りたいんです 迷ってるふりして
僕は風になる すぐに歩き出せる

絶望の果てに希望を見つけたろう
同じ望みならここでかなえよう

僕らはいつも考えて忘れて
どこまでもゆける

『ワールズエンド・スーパーノヴァ

時系列順に歌われるこのライブの序盤戦に3つの名曲、『ばらの花』『ワンダーフォーゲル』『ワールズエンド・スーパーノヴァ』が会場に集ったみんなの背中を押す。誰かの心へ伝わったものはまた別の誰かへと伝播していく。楽しく朗らかにリズムを刻み、進んでいく。その前進を鼓舞するように『水中モーター』『Morning Paper』、そして、「進めビートはゆっくり刻む」という『ロックンロール』の宣言によって、堰を切ったように溢れ出てくる何かに心が満たされていくのを感じてしまう。この溢れ出てくるものはなんだろうと考えると、それは人生と言うには少し大袈裟になってしまうのだけれど、暮らしとか生活みたいなものなのではないだろうか、と思えてくる。くるりは進め、進め、と歌い上げながらも同時にこれまで歩いてきた道を振り返り、思い出すことを観客に伝えているのだ。広い世界は狭くなり、顔も知らない遠くにいる誰かとのコミュニケーションも容易になったし、誰かの痛みも喜びも近いところにあるように感じることができるようになったのかもしれない。しかし、同時にもうきっといつだかのかつてのような日々の優しさを取り戻すことはできないのかもしれないという何かあまりに情けない足下の揺らぎをも感じ取っている。何かが少し変で、不安で、頼りない。『ランチ』で“君”との話によって幕を開けた本公演は、11曲目『The Veranda』にきて、その対比が浮かび上がってくる。「何にもなくなっちゃたかな」と下を向く肩にそっと手を置き、これまで進んできた道程の長さを確認させる。この世界に誕生してから歩いてきた、旅してきた素晴らしい跡を。

君の生まれた日は
ずっとずっと先の
木枯らし吹く毎日の
ふっと晴れた日で
いつもどんな風に
あなたは大人になってく
昨日のことみたいに
出会った日を忘れないで
少し背丈が伸びたみたいだ
目を閉じれば枯れ葉が春を呼ぶ
新しい世界を迎えることになる
寝ぼけた夢も一つの匂いになる

『BIRTHDAY』

そう 行かなくちゃ
このバスに乗れば間に合うはず

『ジュビリー Jubilee』

いつから出てこない 魔法のメロディー
あの頃を思い出そう

『さよならリグレット』

ある日君は家を出た
何も言わずただ泣いていたんだ

『pray』

どこへ行けども思い出せるならば
愛し合うことの寂しさと
思いやることのぬくもりを
ここに置いておけばいいんだ
夢見たように飛んでゆけるから

『魔法のじゅうたん』

背中に虹を感じて 進め
(走れ)泳げ(もがけ)進め 進め

『everybody feels the same』

ダッカパリス、東莞、リオ・デ・ジャネイロ、ブエノス・アイレス、カラチ、イスタンブール、広州=仏山、モスクワ、北京、深せん、ロスアンジェルスコルカタ、大阪=神戸=京都、カイロ、上海、メキシコシティ、ソウル=仁川、サンパウロ、ニューヨーク、マニラ、デリ、ムンバイ、ジャカルタ、東京…さまざまな都市名を旅するくるりの音色にのって、私たちは閉ざされた記憶の世界から少しずつ飛び出していく。演奏後、岸田は「歌っている間ずっと(北京オリンピック2022での)羽生結弦のことを考えていた。めっちゃカッコいいと思った」と明かした。羽生結弦ショートプログラムで8位となり、その後のフリープログラムで世界初認定の4回転アクセルを成功させたが4位、3大会連続の金メダルを逃していた。後日、インタビューで

「オリンピックという舞台まで本気で練習してきて、命がけで演技をしたときにできなかったことに関しては、無駄だったなと正直思っています[・・・]それでも絶対に何かしら信じて突き進んだ道は残っている。いつか振り返ったときに僕自身も含めて無駄じゃなかったって言えたらいいですね」

と話していた。岸田繁にも何か共鳴するところがあったのだろう。記事に載せる(羽生結弦の)写真はもっと良いのがあるはずだよなと笑っていた。羽生結弦は突き進んできた、くるりもそうだし、この会場にいる人たちもそう、くるりの音楽を聴いている人もそう、この世界に生まれ落ちたすべての人もそうだろう。これからも進んでいかなければならない、そして、振り返れば突き進んだ道が確かに残っている。この道のりさえあれば大丈夫だ、僕たちはいつだって大丈夫なのだとくるりはまた音楽で部屋を満たしていく。

咲く花は夢のよう
ここにいてくれてありがとう

『o.A.o』

悲しみの時代を生きることは
それぞれ
例えようのない 愛を生むのさ
散らばった愛を まとめる時間に
振り回されないでいいのさ

loveless

さよなら
別れはつらいものだとして
ありふれたもので
溢れかえる暮らしを捨てて
行くの 何処へ
海鳴りのする方
便り出せば届くそんな時代に
生まれたんだよ僕らは
大したことはない

『There is (always light)』

お前と一緒で皆弱っている
その理由は人それぞれ
耐え抜くためには仰け反れ
この街はとうに終わりが見えるけど
俺は君の味方だ

琥珀色の街、上海蟹の朝』

交わらない ふたつの世界
輪廻の輪の向こう
回る回る 記憶を繋ぐ
また会う日まで

『ふたつの世界』

幸福も憂慮も不安も欺瞞も憎しみも嘲笑も…いろんなことが今すべてこの瞬間にクリアされることはないかもしれない。けれど、ずっと遠くで私があなたとなり、あなたが私となって、もう一度、出会えたとき、何かが変わっているかもしれない。「How Can I Do?」それまではどうか自分らしく少しずつ進んでくれ、と。隣にいるから大丈夫だ、と。立ち止まってもいい、前でなくともいい、と。

所詮 独りぼっちじゃないでしょう
生きて死ねば
それで終わりじゃないでしょう

『ソングライン』

という美しいメッセージに音が重なり届けられる。アンコールでは『心のなかの悪魔』、『潮風のアリア』にて、

くるり - 潮風のアリア - YouTube

くるりくるり結成25周年記念『くるりの25回転』東京公演をラストを飾る。「未来のことを話したい いつでも愛ある明日を信じていたい」というささやかな生活の曲から始まった本公演は、幾度もな編成を経て2人きりとなった今のくるりを象徴するようなステージであったのかもしれない。『潮風のアリア』MVでは旅を続ける2人が映し出されている。ラスト、2人が車に乗り込み、車は右から左へと移動して画面の外側に走り出し、やがて見えなくなる。舞台の上手から下手へと去っていく2人へ、これからの旅へと送り出すための拍手があまりに感動的に響き渡っていた。