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『キングオブコント2020』-ニューヨーク-準優勝

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屋敷「キングオブコント…2回戦負け…やらかしてるわ。去年、一昨年と、一応、準決勝までいって、オールナイトニッポンZEROのパーソナリティになった今年こそは決勝にいきたかった。あのラブレターズでもいっとんやから…オールナイトニッポンZEROのパーソナリティのときはね。あのラブレターズさんでも、なんとか決勝にいって、まあ、決勝でこそ、とんでもないスベりかたしてましたけど。我々は2回戦で落ちてもうて…」

嶋佐「まあまあ…でもちょっと、ムカつきますねー」

屋敷「ええねん!ABCお笑いグランプリのときの嶋佐のコメント」

『ニューヨークのオールナイトニッポン0(ZERO)』

という2016年8月18日の放送が懐かしい。しかし、4年経った2020年では、Finalistの赤いTシャツを手にし、しっかりコントを2本やり遂げているではないか。バナナマンからは95点をもらい、ダウンタウンとの絡みも抜群。『M-1グランプリ2019』につづいて『キングオブコント2020』も本当に楽しませてもらいました。これからのニューヨーク躍進を期待せずにはいられない状況となってきたので大変うれしい*1

嶋佐「ヴァンサン・カッセルエジルアバターもダメで、全然笑ってくれなくてさ。もう殺されるんじゃねえかって。めちゃくちゃムスッとした顔になって。ヤバイヤバイ、スタッフさんも変な空気になって。これはヤバイと思ってテンパっちゃってさ。クラウンが持ってる焼酎をバァッて奪って、一気飲みして、中指たてて『イェーーー!!!!』って言ったら、クラウンが『Yeah!!!』って。これだったか!!って」

『ニューヨークのオールナイトニッポン0(ZERO)』

スリップノットのクラウンとの衝撃エピソードをもつスーパーエンターテイナー嶋佐和也が、次々と技を繰り出していくという披露宴の余興コント。まずもって、このコントが1本目に選ばれたことが素晴らしい。『相席食堂/街ブラ-1グランプリ2020』でもそうだったけど、ニューヨーク嶋佐和也のポテンシャルを最大限まで発揮できてしまうととんでもない笑いが生まれるのは周知の事実なので、これが1本目だったことに盛大な拍手を。嶋佐和也のスーパースターである事実がコントの細部に出ている。鍛え上げられているわけではないのだけれど、妙に引き締まった身体つきがものすごく面白く、大きな岩を持ち上げているときの目だったり、ドリルを腹に当てているときの呼吸の仕方が最高にバイオレンス。嶋佐和也ヴァンサン・カッセルであり、エジルであり、アバターであるのだ。モテ男然とした演技に、針の穴を通すスルーパスや巧みなボールタッチができてしまうスーパースター。そして、アバターのキャッチコピー「観るのではない。そこにいるのだ」を嶋佐和也に送りたい。さらに、

濱家「屋敷のツッコミも完璧やもんな。ドリルでやってたとき、屋敷のツッコミのボリュームも言い方もテンポも全て揃ってないと、客がマジでちょっと引くから。でもあれが笑いになってたのは嶋佐のバカっぽさと屋敷の完璧な全て揃ったツッコミやったんじゃないかなぁ」

というかまいたち濱家による名解説がいうように、そのバイオレンスをやわらげる屋敷の目線も最高。461点が出て2位におさまると、全く点数を意識していなかった屋敷が小さく飛び跳ねて喜んでいるのが超キュートなのも必見です。

 

今の日本も、世界も共通だけど、どこも不況で。不況なときに愛とか言いたくなるのはわかるけど、みんなほんとは納得していないと思うよ。愛とか絆じゃ済まなくなってる。日本なんか、今それがピークなんじゃないかと思うときがあって。外交ではあんなにやられて、総理はヘロヘロだし、政党もヘロヘロだし。震災後、原発問題があって、あらゆることができなくて。だから、そんな中で絆だ愛だなんて言ったって、具体的に何もできねえんじゃねえかってイラつきがあった。

(中略)

もしかしたら、あと20年か30年後に世界中の人が「このときから人間の破滅は始まってた」って言うんじゃないかな。それが今日のことを指すのかもしれないし。我々が幕末の話をするときに「このときにはもう江戸幕府は終わってたね」って言うのと同じように、世界のあらゆるものが崩壊しだしている。この状況にみんなイライラしていると思うんだけど、『アウトレイジ ビヨンド』を観たら楽しんでもらえると思うよ。

北野武が語る「暴力の時代」https://www.cinra.net/interview/2012/10/03/000000

疲れ切った世界に寄り添うように、ニッポンの社長HY『AM11:00』を歌い、空気階段が「恋の尊さ」を訴え、ジャルジャルが「お前置いて逃げるわけないやろ!こんなに可愛らしいやつ!」と叫ぶなか、ニューヨークが静かに拳銃を向けていたことに痺れてしまった。全くアホな理由で人を殺めてしまったニューヨークのコントが、ただただ美しく屹立していたのだ*2。ものすごくアホなことをまじめにやってるのがいい。散髪した髪型を見せるタイミングを見失ってしまい、引っ込みがつかなくなってきた弟分。帽子を脱いで髪型を見せるのか、それとも見せずに死ぬのかを兄貴分に迫られてたとき、死ぬ方を選んでしまうというおかしさ。二人の掛け合いから北野武アウトレイジ』のエッセンスがバチバチにキテるのも最高。そして、今度は兄貴分が拳銃を手渡し、弟分が頭を狙う。髪型を見せるだけの話なのに、死ぬか生きるかの話に飲み込まれようとしている。拳銃をもつ弟分の手と、タバコを吸う兄貴分の手が震えていることから本当に死を意識していることがわかるから、猛烈に笑ってしまう。と思いきや

墓参りには帽子とってこいよ

と結局は帽子を取る取らないの話をしているのが変だ。めちゃくちゃ変で面白い。そして、最終的には帽子を脱ぐことができずに、兄貴分は弟分の身体に6発を撃ち込んでしまうという悲劇。もうきっと最初に帽子を脱がなかった時点で、破滅するしか終わりはなかったのだろうけれど、キングオブコントの舞台で人を殺めてしまう、あの弾着の凄まじい音が、ニューヨークの北野武へのリスペクトを強固にしていたように思う。冷やっとする弾着のあと、「髪型似合ってんじゃねぇか、この野郎」が素晴らしく、とにかくほんとに面白かったです。ハードボイルドの傑作だ。

「暴力の極め付きってお笑いだと思うけどね。いちばんの瞬間的な暴力っていきなり後ろから来てダンッと撃つのがすごいじゃない?お笑いも突発的にドンとわけのわかんないことが始まるじゃない?だからその、時間時間の収縮法みたいなね、すすっと現れるのはお笑いもすごい暴力的だから」

全映画インタヴュー集『武がたけしを殺す理由』

アホが起す笑いからは柔らかなユーモアも生まれるが、それ以上に、発狂するほどの激烈な笑い、腹がよじれ、末梢神経に作用して全身が顫えるほどの笑いを喚び起すこともある。それほどのエネルギーの発生が無価値であるはずがないだろう。

筒井康隆『アホの壁』-アホの存在理由について-

 

*1:『オドぜひ』が本当に楽しみだ

*2:もちろんニッポンの社長空気階段ジャルジャルもみんな面白かった