全員死ねばええと思ってるよ。
汚いもん見んようにして、自分だけは綺麗やと思ってる正しい人ら。
みんな泥水に流されて、全部無くしてしまえばええねん。
神様は俺よりもっと残酷やで。
指先ひとつ。一瞬で人も街も、全部さろてまう。
全部のうなって、それでも10年経てば、みんな忘れて終わったことになってる。
頭ん中の藻屑や。
『ディストラクション・ベイビーズ』で悪魔と契約したがっていた少年は、『MIU404』では自ら悪魔になろうとしたようだ。穴が空いたクスリ、ドーナツEPを配り、人間らしさを奪っていく。それは『僕のヒーローアカデミア』で個性をヒトから消す銃弾を撃ち込もうとしたヴィラン・治崎廻のようであり、散々言われているだろうけれど、軽い身のこなしや思考の読めない表情、紫に身を包んだ姿は『ダークナイト』のジョーカーのようでもある*1。 久住(菅田将暉)が空から落下してきた悪魔として、「誰も救い上げてくれないのだ」と空を見上げているショットは最終回で最も印象的だった。落っこちたものを救い上げるドラマであった『MIU404』。その最終回、意識不明の陣場さんのために届けられた うどんの箱が机から落下する。それを九重が陣場さんに話しかけながら拾い上げていく*2。そして、陣場さんが目を覚ます。九重はすぐさま伊吹と志摩に電話をかけ、LIME*3をする*4。その振動でスマートフォンがテーブルから落下し、伊吹が目を覚ます。という連動した塚原あゆ子演出が冴え渡っている。そのあとの久住と伊吹、志摩の追いかけっこも登ったり降りたりする上下運動がとても楽しい。久住が船から橋へとよじ登るところなんて最高すぎではありませんか。塚原あゆ子演出の米津玄師『感電』の挿入タイミングも素晴らしくて「はぁ〜、終わった〜」と感嘆してしまう。
逃げ出したい夜の往来 行方は未だ不明
回り回って虚しくって困っちゃったワンワンワン
失ったつもりもないが何か足りない気分米津玄師『感電』
この胸に空いた穴が今
あなたを確かめるただ一つの証明
それでも僕は虚しくて
心が千切れそうだ どうしようもないまんま米津玄師『ドーナツホール』
人間には穴が空いていて、それを埋めることで救ったというのか、埋められることで救われたというのか、久住の穴の形を見ることは結局誰もできなかったし、どんな穴があったのかもわからない。都合の良いものを埋める、埋められることで安心する、SNSを取り扱ったこのドラマは定かではないストーリーを飲み込んでしまうことに忠告している。
俺は…お前達の物語にはならない
第6話の野木亜紀子Twitter(https://twitter.com/nog_ak/status/1288325131257835522?s=20)。
人はそう簡単に救えないし、救われない
落ちたものを拾い上げる。そして誰もが様々なスイッチによって簡単に道を踏み外す。そのことを描きながらも、人はそう簡単に救えないし、救われないというのもまたこのドラマが描いてきたことであるのだ。でも生きていかなければならないし、最終回のタイトルが「ゼロ(たった一瞬のこのきらめきを)」であったことだけが希望であるのかもしれない。
たった一瞬のこのきらめきを
食べ尽くそう二人で くたばるまで
そして幸運を 僕らに祈りを
まだ行こう誰も追いつけないくらいのスピードで
それは心臓を刹那に揺らすもの
追いかけた途端に見失っちゃうの
きっと永遠がどっかにあるんだと
明後日を探し回るのも悪くはないでしょう
稲妻の様に生きていたいだけ
お前はどうしたい? 返事はいらない米津玄師『感電』
伊吹「てかさ、これからどうなるんだろうな〜」
志摩「毎日が選択の連続。また間違えるかもな」
伊吹「うん?」
志摩「まあ間違えても、ここからか」
伊吹「そういうこと〜」