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神森万里江『記憶』

【公式】中井貴一主演連続ドラマ「記憶」の共演者が発表! - YouTube 『記憶』という傑作ドラマを観た。2016年に韓国で放送された『記憶〜愛する人へ〜』をフジテレビとJ:COMの共同制作でリメイク。韓国のドラマチックなエッセンスを的確に散らばせながら、法と正義の物語を着実に描き、アルツハイマーの物語、職業の物語、人間の再生の物語など、多くのストーリーを含みながら一本の線を作る脚本も見事だ。

未解決のまま葬られてしまった息子のひき逃げ事故を振り払うかのように仕事に奔走していた敏腕弁護士・本庄英久はある日、若年性アルツハイマーであることを告げられる。薄れゆく記憶のなかで、絶対に揺らぐことのない真実を確かめようと決意するのだが、そのひき逃げ事故には様々な思惑、事件が絡み合っていた。というのが基本的なあらすじである。何はさておき、キャスティングがいい。中井貴一×記憶という相性の良さ、なにかを忘れてしまった瞬間の中井貴一の佇まいはもちろん素晴らしいし、松下由樹と優香が与える暖かさも良い。泉澤祐希今田美桜清原翔といった若手と脇を固める奥寺義則や門脇健二なども抜群である。薄れゆく記憶と事件。このありがちなテーマを役者全員の質感でもって支えている。とりわけ泉澤祐希今田美桜のラブドラマは素敵だ。ここだけが浮遊して学園ドラマを観ているようでもある。小さい2人がぶつかりながらも距離を縮めていく様子が、緩急の少ないこのドラマのアクセントとなっていて少し好きだ。

法律は信じてないけど、正義があるのは信じている

と面接で言ったと言う足立初花(今田美桜)のエピソードもいい。

このドラマは何かが無くなっていく、その過程を映し出していくものであるから、第8話でもそれが描かれる。家族で遊園地に遊びに行き、本庄はソフトクリームを買いに行く。妻と子供2人、そして自分の分の4つのソフトクリームを持ったところで歩き出すと、子供たちが待っている場所がわからない、と立ち止まる。さらには、ここがどこであるかさえわからなくなってしまう。溶けていくソフトクリームと時間の経過。何も分からなくなって立ち止まっている人と遊園地を行き交う人々。切なくて泣いてしまうシーンなのだけれど、そこに息子が現れて手を引いてくれるシーンがあまりにも美しい。手を引っ張って記憶を補おうとする。そう、この物語は誰かの記憶に手を伸ばすものでもあるのだ。立ち止まってしまった誰かに手を差し伸べ連れ戻すドラマであり、誰かを罰するのではなくて導くものであるのがいい。

また遠くに行っていた…。

大丈夫。何度でも連れ戻してあげるから。

不幸は突然に訪れた。

でも、すべてが終わったと思った絶望の果てに、新たな始まりが待っていた。

一つだけ願いが叶うなら、彼らへの愛だけは永遠に消さないでほしい。

思いは消えない。

いいものは決してなくならないから。