6月27日、NHKラジオ第1『ちきゅうラジオ』内のレギュラー新企画『佐藤健寿の奇界な旅』が始まった。佐藤健寿はTBSで放送されていた『クレイジージャーニー』*1にも出演していた写真家。廃墟を巡って、僕らの生活圏内にはないだろう奇妙な建築物を見せてくれた。このラジオでは画はないのだけれど、『奇界紀行』でのような軽快な語りで興味を煽ってくれます。初回はシュヴァルの理想宮というフランスにある建築物の話。ある男が幅26メートル、高さ10メートルの宮殿を独力で作るというものである。田舎の郵便配達夫であるシュヴァルはある日、石につまずき、そこから夢の物語が始まる。昼は郵便配達、夜は石を積み上げる作業をしていく様子を、その人物のエピソードとともに紹介していくのだが、佐藤健寿の淡々とした落ち着いた声がなんともいい。しっかりと文が心に伝わってくる。43歳から76歳までの33年間、子供や妻を亡くし、街の人々からは変わり者だと揶揄され、それでも石を積み上げ続けた男の魂が認められる物語である。
理想宮の内側にはシュバルのこんな言葉が刻まれています。
「私は人間の意志が何を為し得るかを示したかったのだ」
セルフビルド建築は、ヨーロッパ各国に、世界中に、もちろん日本にもあるそうだが、シュヴァルの理想宮のようなクオリティの高いものはあまりなく、かといって、プロレベルでもなく、人間が作り出したもののようには思えない、突如として、そこに現れたような不思議な存在感を感じたのは、他にはないと佐藤健寿は言う。
このシュバルの理想宮は映画化もされていて、そこに佐藤健寿はこんな言葉を寄せている*2。
以前、実際にシュヴァルの理想宮を見たときに感じたのは、緻密さと素朴さ、奇妙さと美しさの不思議なバランスだった。
ぼんやりした夢のヴィジョンをそのまま物体化したような、非現実的な造形は、世界広しといえども類似するものがない。この映画を観て、どうしてシュヴァルがあの建築を造ったのか、そして何故それを為し得たのか、ようやくわかった気がする。
本物の理想宮を背景にした、圧巻のラストシーン。
それはまさにシュヴァルが夢見続けた、本物の「完成」だったはずだ。
シュヴァルが31歳から60歳までの郵便配達で歩いた距離は1日およそ32キロ、29年間で22万キロを超えていた。これは地球5周分にもなるらしい!オートリーヴのバス停からシュヴァルの理想宮までの田園風景を歩く道のりは、シュヴァルの日課を追体験するような経験もできるのだと言う。
佐藤健寿がカメラを向けるものには、そこに確かに“生”がある。誰かの魂が永遠と残る美しさを、彼らの誰とも違うエピソードといっしょに教えてくれるのだ。
第2弾がいつだかわからないので聴き逃してしまいそう。不安。