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NHK連続テレビ小説『エール』第9週「東京恋物語」

f:id:You1999:20200610022341j:imageあっという間に第9周である。毎日1話ずつというわけにはいかないので、録画した4話くらいをまとめて観る、みたいなことになってしまっている。今週は“恋”の物語だ。『椿姫』という戯曲をストーリーテリングに用いながら、結ばれない男と女を描いていく。

鉄男(中村蒼)の目の前に突如として現れたかつての恋人・希穂子(入山法子)。「なんで急にいなくなってしまったのか」と鉄男が尋ねても、希穂子からは「話すことはありません」としか返ってこない。酒を飲み、苦しむ鉄男。阻んでいたものは鉄男が勤めている会社の社長であった。社長は鉄男に自分の娘を婚約者として紹介し、希穂子には彼女の父親の病気を治すためのお金を渡していたのである。1930年代、まだまだ家制度が根強い時代であり、戸主の力は強く、どうしたって個人の尊厳は軽視されてしまう。2人並んで木漏れ日を歩き、カメラのシャッターを切る。そんな慎ましくも、愛おしいシーンを強い力でもって無いものとされてしまっては堪らない、と鉄男は詩を書く。そこに祐一が曲をつけ、レコードとして世に放たれる。結ばれない男女に向けたエールとして、かつてのあの景色を忘れまいとして、鉄男と希穂子の物語が紡がれる。

胸の火燃ゆる宵闇に
恋し福ビル引き眉毛
サラリと投げたトランプに
心にゃ金の灯愛の影

月の出潮の宵闇に
そぞろ歩こうよ紅葉山
真赤に咲いた花さえも
明けりゃ冷たい露の下

唇燃ゆる宵闇に
いとし福島恋の街
柳並木に灯がともりゃ
泣いて別れる人もある

希穂子(入山法子)の超然とした佇まいがあまりにも美しく、そして、それを覆ってしまうほどに儚いのである。きっとこの密かなエール(レコード)は誰かの悲しみを癒し、誰かの過去を淡く補っているのでしょう。