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ダニエル ・ヒベイロ『彼の見つめる先に』

f:id:You1999:20220802113429j:image人はいつも誰かを必要とし、手を伸ばす。ジョヴァンナにはレオが必要であり、それだから離れることに抵抗がある。そんなある日、転校生のガブリエルがやってきて、すんなり2人の間に溶け込んでいく。ブルー系の自然色が彼らを包み込み、会話のトーンも、流される音楽も落ち着いている。とても優雅な印象を抱かされるショットが魅力的に映し出されていくにもかかわらず、ストーリーとして積み上げられるものは、甘酸っぱく爽やかなどこにでも落ちていそうなありふれたものである。その普遍的なものが描かれることで、彼の固有性である目が見えないということや、ゆっくりと過ぎていく時間の中で浮かび上がる同性愛であったりが作品において重要なものとして意識されすぎていないのがいい。ダニエル・ヒベイロのインタビュー。

先ず視覚から人は人に惹かれるというのが通説だけど、“男性も女性も見たことが無い人間はどうやって自身のセクシャリティを定義するのか?”という点から、主人公レオナルドの人生を考え始め、彼のキャラクターを盲目であるだけでなくゲイの少年という設定にした。ただ、レオナルドがゲイであることが大きな要素ではあることは間違いないし、同性愛も描いているけど、それは作品のメインのテーマではない。この作品で描きたかったのは、“盲目でゲイの少年が恋に落ちた”という事ではなく、“恋に落ちたのが、たまたま盲目でゲイの少年だったということ。世界を周り、“ゲイであるかどうか、盲目であるかどうかは関係なく、いつの時代どの国でも普遍的なティーン・エイジャー達の姿=喜びや悩み、葛藤、性の目覚めを描きたい”という目標を達成できたことを今は感じている。

そう、レオはガブリエルも愛していたし、ジョヴァンナのこともまた愛していたのだ。そして、選ばれたのがガブリエルであっただけなのだ。LGBTQ+の枠線を出来る限り曖昧にして、あくまでも普遍的なティーンエイジャーの煌めきに注力した本作は紛れもなく素晴らしい青春映画である。

『彼の見つめる先に』の秀逸なところとしてキャラクター造形の素晴らしさがあるだろう。誰にでもフラットに接することのできるカリーナをうまく描き、単にフラフラとしているような人物像としてされていないのが良い*1。それと、このムービーで個人的なお気に入りである、パーティやキャンプの片隅で、密かに持ち込んだウォッカなどを隠れて飲み、それをこっそりと売人のように、他生徒にも配るというあのキャラクター。「うわ〜、こういう奴いたよな〜」という懐かしさと彼のニヒルな笑い方が妙なカタルシスを内包していて笑わされる。

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主要なキャストの未来だけではなく、そのほかのキャストの未来をも想像したくなってくる。視線の方向へと前進する若い眩しさを肯定感とともに未来に託す。光の当てかたの途方もない美しさや豊かな色彩バランスで描いた本作が映し出すものは、その彼らの今である。

 

*1:実際、こういう何に対しても、誰に対しても本当にフラットに接することができるやつっているよね!良いやつ!