昨日の今日

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お笑いとテレビと映画と本と音楽とサッカーと…

NHK『あたらしいテレビ』

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5月10日にNHKで放送された『あたらしいテレビ』が面白かった。今テレビにできること、これからのテレビの役割についてなどを佐久間宣行(テレビ東京 プロデューサー)、土屋敏男日本テレビシニアクリエーター)、野木亜紀子(脚本家)、疋田万理(メディアプロデューサー)、ヒャダイン(音楽クリエーター)、フワちゃん(YouTuber芸人)が話し合っていく。これからの「テレビ」の話をしようと未来のことを話していくなかで、過去のテレビ番組や映像作品が浮き上がってきたことにとてもワクワクしてしまった。これからの話をするには、まずこれまでの話をしようかという感じなのだけれど、それらをあくまでも個人的なものにピントを合わせて拾ってみたい。

(佐久間宣行)あのー、星野さんって、ずっと昔から仰ってることが変わんないなって思っていて、それは僕、星野さんの曲で『ばらばら』って曲がすごく好きなんですけど、それは、世界はひとつになれないっていう曲なんですよ、で、それぞれ交わらないけど、重なり合うことはできるみたいな、で、ひとつになろうって言い続けることの嘘臭さとか、それを汲み取って、でもそれぞれが自分を大事にしたり、他人を大事にすることはできるよね、っていうなんか、言ってることが変わらない人っていうのは、すごく信用されるなっていうふうに思うし、こうバラエティ番組ひっくるめて、テレビでもずっと特に嘘をついてるってことが嫌われてきたなって思うけど、だからこの状況でも言ってることが変わらなくて、かつ、みんなが遊べるものを提示した星野さんが指示されたのはそういうことなんじゃないかなっていうふうに思いますね。

星野源『ばらばら』と聞いて、思い浮かぶのが大根仁モテキ』である。ゆっくりとカメラが上昇し、暗闇に光る命の灯りを撮らえていく。その光のそれぞれが生きていることに“ばらばら”と名付けてしまう星野源のレトリックに感動してしまう。誰かは歯磨きをし、誰かは目覚め、誰かは電車やバスに揺られ、誰かは泣いてるかもしれないし笑っているかもしれない。ハライチ岩井フリートーク『同窓会』での

みんな頑張ってんだよ!

という叫びが聞こえてきそうである。しかし、みんな頑張っているからこそ対立してしまうことなんかもあるのかもしれなくて、5月5日『爆笑問題カーボーイ』での太田のトーク

実は、岡村のことを怒っている人って、その貧困の若者に向き合っている人やフェミニストの人、やっぱ、そこと重なるんだよね。相手が。その救おうとしてる相手が。

重なってる部分がある。全部がじゃないよ、全部じゃないけど、重なってる部分がある。で、俺はね、そういう若者たちと岡村のリスナーも重なると思ってるわけ。

僕と君とはばらばらに生きてる違う人間だ。でもきっと、重なった部分を手掛かりに、わかり合えると思っているよという誰かの涙に『ばらばら』が寄り添ってくれるといいなと思う。

 

(フワちゃん)おじさんの出演者って結構多いじゃないですか、それでね、おじさん同士が結構、「いや〜お前それロンバケ木村拓哉やか!」とか言ったり、プロレスの知らない名前だったりとか、よくわかんないけど、「ハハハー」って笑ってる状況が結構多かったから、これを機に私もちょっと、そんなに例えに出すほど面白いんなら見してーって思ってたから。だから再放送してくれたら凄い嬉しいです。そしたら私も次から手を叩いて笑っちゃうかも。

野木亜紀子)ドラマとかも、もともとはちょっと前まで再放送枠っていうのが民放も結構あって、朝10時からとか、夕方からの再放送枠があったはずが、いつのまにか無くなってちゃったんですよね、なのでなんかそういうのがきっと今オンデマンドにあるものは、オンデマンドで観れるけど、観れないちょっと前のドラマとか、なんかもっと再放送してくれてもいいなあと思うし、したことによってこう仕事量が減っていけば働きかた改革みたいなことも含めて、やっぱりテレビ局員さんって、すっごくみんな忙しく仕事してるし、再放送を活用することでコンテンツ数を間引いて、それぞれの質を高めるみたいな作り方ができれば、本当は良いのかなあっていう気もしないではないですよね。

僕も夕方のドラマ再放送にはすごく楽しませてもらった人間なので、再放送枠が日常に戻ってくれば良いのになあと思う。夕方の再放送で大好きになった映像作品はとてもたくさんあるのだけれど、そのなかでも『オレンジデイズ 』『ロングバケーション』『タイガー&ドラゴン』『プロポーズ大作戦』なんかは何度観たことだろうか。青春の眩さではなく、青春の終わりに悩むことの美しさを描き出す『オレンジデイズ 』だったり*1

ロングバケーション山口智子、『プロポーズ大作戦長澤まさみはめちゃくちゃ好きになってしまったな。今放送されている『野ブタ。をプロデュース』も少し古臭さはあるものの、脚本は木皿泉であるし、本質的なところはバシッと届くようになっているので、あの夕方の再放送枠を小学生や中学生に届けてほしい。野木さんが再放送してほしいと言っていた『王様のレストラン』もいいですよね*2

プロレスや野球の名試合は是非とも放送してほしい。それをお笑い芸人やタレントの方々の副音声付きでやってくれたら尚更いい。『ザ・ドリームマッチ2020』のサンドウィッチマン伊達×バイきんぐ西村のネタは昔の野球を知ってればきっと面白かったのだろうに、という知らないことで笑えないストレスを抱えてしまったので、それを補足してくれるような過去映像の掘り返し番組をやってくれると凄く助かる。『相席食堂/街ブラ-1グランプリ2020』とかは未公開シーンがふんだんにありそうなので観たい。

 

野木亜紀子)3.11(東日本大震災)のときもやっぱり前と後でドラマ表現もちょっと変わったとこがあると思うし、3.11のときも直後はなかなかやりづらいとこがあって、まあ徐々にやっていったみたいなとこがあるんですけど、私自身は結構その3.11のこと、震災のことに関しても、今のドラマでなるべくこう個人的には入れたいなってところがあって、それはやっぱり3.11もまだ終わってないと思うんですね、結局そのそこで未だにお家に帰れない人がいたりとか、引きずっている人がいたりっていう状況があって、まだ苦しんでいる人がいることを忘れないようにやってかなきゃいけないな、っていうのは思ってるんですけど、なので今回のコロナウイルスに関しても、このあとどれだけ大きくなって状況がどうなるかはわからないですけども、今の思いみたいなものはいずれやっていかなきゃいけないとか、それを踏まえた表現を、私たちは記憶・記録として何かしらの形で残していかなければなと、やっぱり思ってはいます。

3.11が描かれたものとして、個人的に印象に強いのが坂元裕二最高の離婚』や濱口竜介寝ても覚めても』であったり、2019年に放送されたフジテレビ『監察医 朝顔』であったりする。『最高な離婚』では出会いが、『寝ても覚めても』では突然の別れが、『監察医 朝顔』ではずっと続いていることが、3.11によって描かれていた。地震によって電車が止まってしまい、長い道のりを列になって知らない誰かとお話ししながら歩く。その姿から希望が灯る。『寝ても覚めても』『監察医 朝顔』でもそうだ。うずくまる女性にハンカチを渡す、誰かがそこにいたというカケラを探す、というそれらひとつの行為、人と人の交わりから生まれる些細な希望が灯されている。何かが起こったとき、きっとその前にはもう戻れないのだろう。けれど、生活はつづいていく。これらの映像作品の切り取られた“今”には“これから”が確かに映し出されていた。『あたらしいテレビ』でもテレビの役割は“今”であると何度も言及されていた。あたらしいテレビには“これから”がどれだけ映し出されるのだろうか、まあエンタメに限っては僕はやっぱりテレビを見てしまうなあ。

 

 

*1:三浦大輔『何者』の「青春が終わる。人生が始まる」というキャッチコピーをそのまま借りてしまえばそれまでなんだけど。

*2:結局、山口智子が好きなんだなあ