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「心の傷を癒すということ」第一話

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 NHK土曜ドラマ「心の傷を癒すということ」が始まった。阪神・淡路大震災発生時、被災者の心のケアに奔走した若き精神科医とその妻や彼が寄り添い続けた人々との「心の絆」を描く。

 第一話「神戸、青春の街」では安和隆(柄本佑)の在日韓国人としての悩み、親友・湯浅(濱田岳)との友情、終子(尾野真千子)との出会いを経て、精神科医となるところまでが描かれた。

 このドラマの主人公である安和隆は心を癒すために時間を消費する。湯浅と自転車レースをしたり、名画座で「東京物語」を繰り返し観て聞こえづらいセリフを確認するし、精神科医となり、先輩に要領良く診察しろと言われても時間をかけて丁寧に患者の回復するきっかけを探そうとする。所々で時計が映し出されたり、バスの中で、終子が「モモ」を読んでいるところなど、“時間”というキーワードに意識的だ。「モモ」はドイツの作家、ミヒャエル・エンデによる児童文学作品で、盗まれた時間を取り戻すというお話だ。その主人公の女の子モモにとって“時間”は他者との関係であり、時間が無くなると他者との関係性も無くなってしまうのだ。そして、時間は絶えず進むもの。昼であっても、時間が経てば夜になってしまう。しかし、また明るい朝がやってくるのである。淡々と進む時間を丁寧に着実に描いていく。

(和隆)子供のころ見てた世界って、もっと眩しくなかったですか?

(終子)そうですね。でも、また明るくなる日もあるんちゃうかと思ってます。

 ミヒャエル・エンデ「モモ」からもうひとつ“聞く”ということを取り上げたい。主人公の女の子モモは人の話を聞いてあげることで、話している本人でさえも気づいていない底意を引き出すことができる。

モモに話を聞いてもらっていると、どうしてよいかわからずに思いまよっていた人は、きゅうに自分の意思がはっきりしてきます。ひっこみ思案の人には、きゅうに目のまえがひらけ、勇気が出てきます。不幸な人、なやみのある人には、希望とあかるさがわいてきます。(ミヒャエル・エンデ「モモ」)

 安和隆も患者の話を聞くということに時間をかける。なによりも聞くことだ。「東京物語」でも聞こえづらいセリフを“聞く”ということに熱心だったし、それは患者に対しても同じだ。話を聞くというのは当たり前のようだけれど、そういう当たり前のことが困難にぶつかったとき、最も大切になるものだ。

 このドラマは生きる上で重要なかけがえのないものを描いていると思う。この世に生きるみんなに必要な物語だ。人間の心が何より大事だと言うことを優しく思い出させてくれる。最後に、世武裕子さんの音楽がとってもとっても優しく寄り添ってくれるのはありがたい。このドラマの時間だけでも「心の傷を癒すということ」が何かを考えることができれば、と思う。

例えば、病気になること。

例えば、人が死ぬこと。

戦争も貧困も、災害もそうや。

この世界は、人の心を傷つけるもんで溢れてる。

人の苦しみを、さっと拭い去ることができたら、どんなにええやろと思う。

でも、それはでけへん。

神様とちゃうから。

人間にはでけへん、ほとんど何も。

それでも、僕にできることは何やろ。