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西谷弘『マチネの終わりに』

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一目惚れし、誰かを好きになる。相手のことがわかり、自分のことも受け入れられる。話が合い、時間を共有することで、また好きになる。たった三度しか会っていないにもかかわらず、彼らが愛し合っていることに、「マチネの終わりに」は映像美、音楽、街の風景や食事、美術セットによって、全く疑う余地を与えないのである。
この映画の背景の美しさは、より私たちを映画に没入させる。夜の街で、蒔野聡史(福山雅治)が小峰洋子(石田ゆり子)をタクシーで送るシーンでは、街灯が丸く煌き、彼らを包みこむ。まさに、“大人の恋愛”を思わせる。蒔野と洋子が、洋子の自宅で愛し合う場面では、背後で風車が心地よく回っていて、私たちは、風を感じ、さらに、月光が差し込むと、もう彼らの関係を疑うことはできないのである。彼らの空間が、よりリアルに体感できるからだ。
作り上げた美術セットは、登場人物たちの劇的な展開を助けている。洋子の自宅からみえる窓外のパリの風景は、すべてミニチュアで、窓を全部切り抜き、フィルムを貼って、ライティングしているという。そして、蒔野と小峰がレストランで食事をするシーンでは、水色の窓枠が、まるで絵画の額縁のように機能しており、本当に優雅な印象を抱かせる。私たちは、ほとんど憧れのような気持ちで、彼らを観ているのだ。
真夏の方程式」「昼顔」を経て、「マチネの終わりに」で、西谷弘監督が描く、映像としての完成度、瑞々しさは、より高まっている。「真夏の方程式」「昼顔」でもサウンドを手掛けた菅野裕悟作曲のメインテーマ「幸福の硬貨」は、映画の中で、とても重要な役割を果たし、私たちの胸に訴えかける。天才クラシックギタリストを演じた福山雅治は「幸福の硬貨」を自身の手で演奏している。

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幸福の硬貨

幸福の硬貨

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「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?」

 これは、映画でも原作でも、テーマとなっているセリフであるが、序盤で語られたこのセリフは、良くも悪くも、物語に関わってくる。
登場人物それぞれが、それぞれの未来を、そして過去を、より良いものにしようとする。決して、ひとりよがりではない。相手がいて、自分がいて、自分がいて、相手がいる。過去があって、未来があり、未来があり、過去がある。
美しい映像の中で、過去に目を向け、未来に臨む登場人物から、目を離せないのである。