『WORKING!!』や『ソードアート・オンライン』シリーズなど数々の作品でキャラクターデザイン・総作画監督を担当した足立慎吾の初監督作である『リコリス・リコイル』第1話は、夏アニメを代表する傑作になることを予感させられるものであった。安定した作画*1、OPとEDがClariSとさユり*2であることもその力の入れようをよく表しているでしょう。
物語は主人公・錦木千束(安済知佳)が急遽任務によばれ、バイクを走らせるシーンから始まる。テレビでは平和の象徴「延空木」が完成間近であることを伝え、電光掲示板では「日本の治安8年連続世界1位に」を知らせている。誰もが(本作の)日本は平和な世界であることを信じ暮らしているのだけれど、その視界の外側において、爆弾魔、刃物を持った男などが誰にも気づかれずに手早く射殺されてしまう様子が描かれる。そんな表面的な平和な世界を維持するために暗躍するのが、犯罪を未然に防ぐ秘密組織「DA(Direct Attack)」のエージェントたち、「リコリス」なのだそう。
大きな街が動き出す前の静けさが好き。平和で安全、きれいな東京。日本人は規範意識が高くて、優しくて温厚。法治国家、日本。首都・東京には、危険などない。社会を見出すものの存在を許してはならない。存在していたことも許さない。消して、消して、消して、きれいにする。危険は元々なかった。平和は私たち日本人の気質によって、成り立ってるんだ。そう思えることが1番の幸せ。それをつくるのが私たち、“リコリス”の役目なんだってさ!
「なんだってさ!」*3というどこか他人事であるような、もしくはその役割に完全には納得していないような口振りが今後の物語の展開に示唆的であるように思える。何かを覆い隠すように維持されている見かけ上の平和の光は、その構造的な欠陥によって、影の部分をより深く色濃くしてしまう(「無知であるほうが、ひとは幸福なんだよ」という後半でのセリフもまた邪悪な構造を端的に表したものである)。冒頭、濃厚な珈琲エキスがポタポタと落ちて、少しずつポットを満たしていくのもまた示唆的であるだろう。そして、その構造に何か疑問を持ち始めているのが錦木千束なのだ。敵を殺すことを避け、仲間の命を大切にする。
命令違反の責任を問われ喫茶リコリコに転属を命じられ、千束とバディを組むことなる井ノ上たきな(若山詩音)*4は千束とは正反対なキャラクターであり、敵を抹殺することに容赦がなく、合理的だと思った場合なら多少の犠牲にも躊躇しない。この2人の化学変化が楽しみである。キャラクターデザインもむちゃかわいい*5!
そして、本作の最も白眉な箇所はチャド・スタエルスキ『ジョン・ウィックシリーズ』のような近接戦闘C.A.R.システムを採用したガンアクションの素晴らしさだろう。銃弾を寸前で回避し、車のフロントドアを蹴り相手にぶつけ、フロントドア越しに銃弾を撃ち込む。とどめをさすときの後ろ姿のショットが最高なのです!*6左手をフロントドアに添えて、撃ち込む銃弾、散る火花、首の角度、ミニスカート、連続する街灯による奥行き。カッコよすぎる。肘を曲げ、両手で小さく構えて正確に当てながら軽やかに進んでいく。このときの安済知佳の声の軽さもいい。あまりに楽しげであるのが銃声とカットの連続のリズムとのシナジーを起こす。テンポの良い編集、かっこいいカットなどが2話、3話…と続いていくのを期待したい。とにかく映像的に楽しめる傑作誕生の予感なのである。必見だ。