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植田まさし『40周年記念コボちゃん傑作選』

f:id:You1999:20220629154748j:image(ほぼ)365日、描き続けて40年。1982年に連載がスタートし、作品数は1万4,000回を超える。『コボちゃん』連載40周年記念に刊行された『コボちゃん傑作選』は市井の人々がこの世に生きるアイデンティティのギュッと詰め込んだ本になっている。本書冒頭には「植田まさし先生スペシャルインタビュー」が置かれており、「コボちゃん」というのは名前が植田まさしが幼少のころ、“こぼんちゃん”と呼ばれていたことからきていること*1や、初めて作品を描いたときのこと、大学時代のこと、時代の移り変わりと家族のあり方の変化について、アイデアが出ないときのことなどの質問への回答を読むことができる。

第1章「コボちゃんワールドの名作たち」では、6つのトピックからまとめられた傑作4コマの数々を読むことができる。「発想力に脱帽」の節では、コボちゃんの天才的なひらめきが4コマの物語にリズムを加え、“遊び”の本質を見せてくれるかのような楽しさに魅了される。「家事・育児にもユーモアを」「ビジネスマン(主にパパ)の頑張り」では、ユーモアは子どもの遊びにだけではく、大人の生活にだって煌めきを与えるのだ、というクスッと笑える大人の余白を描いた4コマがまとめられている。「子どもたちの素直な心と成長と」では、服を汚したコボちゃんが大人に怒られる3コマを描いたあとで、4コマ目に実は家族の靴を磨いために汚してしまったことが明かされる16回が最初に置かれており、最後に、「世界の子供たち…戦争と貧困の中で…」と告げる薄型テレビをコボちゃんが「そうなんだ…」と見つめる13037回で終わっているのがなんだか示唆するものがあるようにも思える。他にもおじいちゃんとおばあちゃん、パパとママの関係の愛おしさについて描かれた「夫婦だって、いろいろある」や、誰かの思うことやそのすれ違いをも描いた「やさしさを忘れない」などのテーマでまとめられた4コマを読むことができる。

第2章は「40年の歴史を振り返る」というもので、テレビCMの影響でブームになったエリマキトカゲ国鉄の分割民営化、瀬戸大橋の全線開通、ベン・ジョンソンの金メダル剥奪、消費税3%導入、ベルリンの壁崩壊、横綱千代の富士が通算1000勝達成、イラク多国籍軍による湾岸戦争勃発、ソビエト連邦の崩壊、夫婦別姓を含む民法改正要綱試案の公表、プロ野球イチロー活躍、阪神・淡路大震災、イギリスで世界初となるクローン羊「ドリー」の誕生、サッカー日本代表がワールドカップ本戦への初出場、女性専用車両京王電鉄で初めて導入、人気を博すSMAPの活躍、LEDを利用した照明の活用、荒川静香が披露したイナバウアーがブームに、写真はフィルムではなくデータで保存する時代に、 マイケル・ジャクソンの逝去、AKBが人気に、東日本大震災、アナログ放送の終了、なでしこジャパンの優勝、東京スカイツリーの開業、携帯電話がスマートフォンに変化、全米オープンテニスで錦織圭が準優勝、ラグビーワールドカップで日本が南アフリカに逆転勝利、熊本地震、イギリスがEU離脱を決定、ポケモンGOがリリース、元号が平成から令和に、新型コロナウイルスが発生…などなど、並べただけでも圧倒されてしまうのだけれど、このすべての日にコボちゃんは生きていて、しかしそんなことを関係なしに遊んでもいる。コボちゃんが駆け抜けた歴史を一緒になって追体験できるのは、(ほぼ)365日で新聞で毎日連載されている『コボちゃん』だからこそできるのだろう。これらのニュースがどういったふうに描かれているのか、ぜひとも確認してみてください。時代の変遷をしっかりとキャッチしたであろう4コマだとわたしは13459回のこれが好きです。f:id:You1999:20220629210835j:image「そんなことはないよ」に「そうだね」と返せるのが素敵だ。この4コマが新聞の片隅にあることできっと誰かが勇気づけられているでしょう。

第3章は、歴代担当者による座談会とおすすめ回セレクションがあって、4コマの下にはちょっとした解説や当時のエピソードなどが添えられている。いろんなひとの支えがあって続いている連載、毎日続いていくコボちゃんと田畑一家、そして、わたしたちの日常。『コボちゃん』ファンである能町みね子*2との対談では、「コボちゃん」創作の裏側に迫る 植田まさしさん×能町みね子さん記念対談...連載40周年記念ファンミーティング - YouTube 「2年に1年くらい時間を進ませてみようかな」という構想案を持っていることを明かしてくれている。

わたしは74ですからね。もう10年もやったらギネスですからね。そんなにはいくかいかないかわからないので。このまんまいこうか。あとは2年に1年くらい進ませる、とかね。おじいちゃんが死ぬとかね(笑)

そして、このコロナ禍になってからの妙な息苦しさについても言及している。

能町「なんとなくずっと40年くらいやってきて、自分のなかでテイストを変えた部分とかあるんですか?漫画の内容として」
植田「うんとね…それは最近ですね」
能町「えっ、最近ですか」
植田「コロナになってから、世界中の世の中の規律とかやさしさとかね、そういうのが余計に強くなっているような感じがしてね。笑い飛ばすよりも共感させる方がいいのかな?っていうことがあったりね。でも、それをやってみると私としては消化不良だったりね」
能町「もともとは結構、毒っけのある話も描かれてましたもんね」
植田「そうなんですよ」

何が本当なのか、何が大切なのか、迷うことばかりである。コボちゃんと田畑一家はどうなふうに考え、どんなふうに暮らしているのだろうか、そんなことを楽しみながら、40周年を過ぎ、これから変化していくかもしれないコボちゃんの世界観と成長を見守っていきましょう。

*1:おぼん・こぼん」っていらっしゃいますよね。それみたいに、長男のことを「おぼん」、そして、「なかぼん」もいて、一番下が「こぼんさん」なんです。p7

*2:能町さん、最終的にこの対談までいけるのすごい