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山本英×イ・ナウォン『惑星サザーランドへようこそ』

f:id:You1999:20220422010622j:imageYoutubeの「みせたいすがた」というチャンネルにて公開されているソーシャルドラマ『惑星サザーランドへようこそ』は全5話のSFチックな短編である。1話およそ10分と短いので観やすいのだけれども、描かれているテーマは生物が生きること、またその美しさとはどのようなものであるのだろうかということであって、なかなか難しい。物語は、千葉県・館山にある別荘でアルバイトをしていた麗美(塩塚モエカ)が同じくバイト仲間であった3人から、私たちは地球から遠く離れた場所にある惑星スクルドからやってきた宇宙人エヌマなのだ、と告げられるところから始まる。エヌマたちはデータでできていて、愛とか、身体性とか、そういったものは持ち合わせていないらしく、そのような複雑なものを持ち合わせた人間を調べたり、地球探査をしたりという使命を背負ってやってきたようである。麗美と暮らす日々の中でエヌマたちは地球上のさまざまなものに触れていく。大切なケビン(真鯛)をめぐって生と死を考える波多野、蓄積されたデータというだけではないもっと複雑な何かに惹かれている麦、永遠に残り続けるものに憧れ、私も生み出してみたいとピアノを鳴らす梅ちゃん。それぞれがいろんなことに悩み、考える。複雑なことを複雑なこととして理解して、同じところを何度も何度も行ったり来たりする。心は揺れる。

本当は地球で最も美しいとされているサザーランドへ向かう予定だったらしいのだけども、土地面積の類似から間違えて千葉県・館山に不時着してしまったというその揺らぎこそ、本作における最も美しい出来事であって、データ的な識別による誤作動から、出会うはずではなかった他者と出会うこと、その偶然性に豊かさが、愛が宿る。いつもは夜空を見上げない人間が珍しく星と目を合わせることが冒頭に置かれていることもまたこれを示唆的である。気付いてなくともその視界に入り込んでいるいろんなところに世界は広がっていて、あるときふと気がつく。私たちは偶然性を頼りにすこしずつ気づいて、進んでいく。知らず知らずのうちにデータは蓄積されていて、蓄積されたデータによって行動は決定づけられているのかもしれないけれど、しかし、ときたま起こるデータの突然の揺らぎによって、遠くに飛ばされることがあって、そんな瞬間から育まれるものを人間という生きものは愛しているし、愛すことができるののだ。知らなかったことを知っていく宇宙人と、知っていたことを思い出していく人間はまたいつかどこかできっと出逢う。

何億光年の距離を飛び越えて、またいつか逢おうね

エヌマは愛を知って、帰っていく。麗美はまたなんともなしに空を見上げて、星と目を合わせるのだろう。そして、もうすでに出逢っていたことを思い出すのだ。