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パンプキンポテトフライ 第一回単独公演『ぶた』

f:id:You1999:20220429220031j:image北沢タウンホールにてパンプキンポテトフライ第一回単独公演を目撃!単独のタイトルは、彼らの漫才途中でなんの突拍子もなく奇想天外に放たれるワード(ねづっち)のように、なんの脈絡もない、『ぶた』である。Youtubeチャンネルで公開されているタイトル決めでその全貌を確認することができるのだけれど、さまざまなタイトル案に苦悩するなか会議終盤に谷がふと口に出した“ぶた”というワードがそのまま採用されてしまった形だ。しかし、思いつきで発したであろう“ぶた”という言葉には、なかなかに含蓄がありそうなのである。1世紀、古代ローマ時代に書かれたプリニウスの『博物誌』には、「どんな動物でも豚ほど多くの材料を飲食店に提供しているものはない。すべての他の肉はそれぞれにひとつの風味しかもたないが、豚は50の風味を持っている」という豚についての記述が残されているのだそう*1。また、そもそも豚とは人間が野生の猪を家畜化した猪の子孫であるそうで、もともと狩猟の対象だった野生の猪を、人間が飼い慣らすようになったのが豚という存在の最初の定義になるようなのである。これを今回のパンプキンポテトフライの単独に当てはめてみたら、外のライブに繰り出し、猪を狩るために漫才を披露していたパンポテが、今回初めて単独を開催することによって、ある一部のファンを柵の中に囲い込んだのではないか、というメタファーとして捉えてみたくもなってしまう。つまり、“ぶた”とは我々のことなのだ、と。このことは谷がライブ最後に言及した「今日この単独に来てくれたってことはずっといっしょに暮らしていくってことですよね?」と共鳴するところであるかもしれない。私たちはもはや逃げることもせず、パンポテの囲った柵の中で漫才を浴び、さまざまな感情を浮かび上がらせながら、ただひたすらに笑い肥えていく。そんな永久機関の誕生を宣言するのが、今回のパンプキンポテトフライ第一回単独公演『ぶた』だったのではないか、とあまりに拡大解釈かもしれないのだけれど、そんな空想に耽ってしまいたい。家畜というと酷いけれど、野良ではなく共に生きていくものとしての意味に緩やかにスライドして捉えていただきたい。「あなたたちはこれまでのお客さんとは違うんですよね?味方なんですね?僕らの生活を支えてくれるんですよね?」という意味での「ぶた」なのである。

今回の単独は、猪を追いかけてあたふたと狩りをせず、共に暮らす豚との交流であるからして、パンポテはただただタバコを吸うだけの1、2分の映像でもってOPを飾るのである。また、“タバコを吸う”という何かの中毒になるモチーフを単独ライブ開幕の宣言に持ってきて、漫才を開始するのも憎い。これから私たちはパンポテの漫才を吸うのである。そして、最初の漫才が「引っ越し」であったことにいま振り返って悶絶してしまう。谷の「今日この単独に来てくれたってことはずっといっしょに暮らしていくってことですよね?」は本当にこの単独ライブに込められた裏テーマであったのかもしれない。さあ、いっしょに暮らすための部屋へ引っ越そうではないか、という開幕に相応しいオープニングネタである。

幕間VTRは「会議でいつも企画案を出さない山名が変な企画案をたくさん出してきたら、谷はどんな反応をするだろうか」というものだった。グラビアアイドルと合コンをするという企画案に苦笑されたあと、吉祥寺の豚カフェでのロケを提案する。この前、吉祥寺に行ったときにちらっと見かけて興味があるのだという。山名がロケで豚カフェを訪れると、そこには豚の格好をした谷がいるというもので、谷ブタを指名していっしょに戯れたりするのだそう。しかし、気に入ればお金を払ってその豚を買っていくこともできることを山名が言及したところで、谷からの「お前、なんか詳しくない?ファンと行ったんやろ」と追及が始まり、「いや、はあ笑」とたじたじになる山名にさらに、「ママタルト檜原さんも『幕間VTR明けって客が重くなんねん』って言ってたから幕間とかいらんちゃうん」と浴びせていく。慌てて山名が「幕間終了です」と言い、VTRが終わるといった具合で、OPに続きなんとも簡素ではあったものの、らしいつくりに満足できる。仕掛けた側の山名があたふたする、実にパンポテらしいではないか。

幕間VTR明け、会場が重くなることを心配していた谷だったけれど、そんなことは杞憂に終わる。漫才「動物園」の掴みのあと、山名の第一声、「気になる人がおるんやけど」が映像でのファンとの豚カフェデート疑惑と共鳴し、動物園デートに行こうとするとまた豚カフェの余韻がふっと立ち上がってきて、会場はどっと湧いていた。谷がはにかみ、「邪魔やなあ」とつぶやいていたのがよかったし、ライオン、しまうま、ぶた、猿などを見物していくネタ途中で次に見に行く動物を山名が忘れてしまったようで、谷が「ゴリラですよ、ゴリラ見に行きたい」と誘導していたのもよかったです*2。芸人という枠組みにおいての“できる人としての谷”と“できない人としての山名”、それが社会生活に置き換わると微妙に変化するのもパンプキンポテトフライの美しい強みだ。「ふたりのちゃんとしてない所が好きなんです」と言いたい思いにかられてしまう(いつまでも不器用な2人でいてほしい)。

そして、この単独公演では谷が選曲したと思われる開演前SEや出囃子も素晴らしかった。吉澤嘉代子赤い公園、FINLANDS、チャットモンチー松任谷由実パスピエ、中村佳穂、カネコアヤノ、阿部真央アカシック私立恵比寿中学YUKIポルカドットスティングレイなど、すべてが女性アーティストによる楽曲であって、幾人の女性たちに頼り、ヒモとして生活してきた谷にとって、この単独を開催することができたのも、この漫才を披露できているのも、これまで支えてくれた“彼女ら”のおかげであるとの表象に思えてならなかった*3。しかし、これからもう少しは大丈夫だろう。グッズとして販売したアクリルスタンドは200個以上売れ、ひとまずの固定ファン(ぶた)を囲い込むことにも成功したのだ。単独公演を2回、3回…と、そして、これからもたくさん漫才を作っていってくれることを期待したい。とても楽しい第一回単独でした。最後に、私が把握できた範囲での開演前SEと出囃子をまとめたプレイリストを置いておきますね。パンプキンポテトフライ 第一回単独公演『ぶた』 - playlist by nayo | Spotify

*1:https://cuisine-kingdom.com/pork-history/

*2:アクシデントなのかそうでないのかはわからない

*3:単純にただ好きなだけ、というのは理解しています