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熊倉献『未来人たち』

f:id:You1999:20211225204307j:image『春と盆暗』『ブランクスペース』の熊倉献によるショート読切12ページ『未来人たち』にジーンときてしまった。フキゲンな現在からゴキゲンな未来を描け。という本作のテーマにはコロナ禍、さらにはそのほか色々なものを乗り越えようという希望と責任が描かれている。そして、それには熊倉献がこれまで扱ってきた“想像力”というものが欠かせないのであろう。コロナ禍のなかで、卒業を控えた学生が文集を作成するために、クラスに配ったアンケートを回収する。「Q6.もしもタイムマシンがあったら?」という質問に、「小6の自分がジャングルジムから飛び降りるのを止める」「未来の服の流行を知りたい」「ティラノサウルスを見に行く!」という各人各様の回答があるのだけれど、その中から「我々はとっくに未来人からの過去改変を受けている」という記述に、ある女の子は目を奪われる。彼女は漫画家を目指しているようなのだけれど、どうにも個性というものを必要としているらしい。応募した新人賞からの選評には「15才にしては絵はうまい。話はよくあるような感じ」「なんかこういうの多い…個性が欲しい」「若いのに荒削りなものが全くない」などの言葉が並んでいる。翌日、「我々はとっくに未来人からの過去改変を受けている」と書いた坂本くんにその真意を尋ねてみると、

本当は何もかももっとひどかったのかもしれない…
この現在からは想像がつかないような––––
未来人たちがそれを何度も改変し続けて
なんとかこの程度まで持ってこれたのかもって
––––そう思って

というふうに答えてくれる。個性に憧れる彼女が「うらやましい…」と呟くと、「そんなもんあったってハブられるだけだろ…アホらし」と言い、続けて卒業文集の質問に対して「コロナ禍の真っ最中にどーいう神経してんのかなって。どうせロクでもないものが待ち受けているのに、なんでワザワザこんなこと聞くのか…全部どうでもいいし考えたくもない。今未来に期待持つなんてアホだろ」とまでぼやいてしまう。しかし、そんな坂本くんの個性に魅了されている彼女はバシッと用紙をぶんどって「Q8.将来の夢は?」の欄に「漫画原作者」と記入してしまうのだ。そして、2人の言い争いながらの共同制作が始まり……………10年後。同じように言い争う2人が編集者も加えてファミレスで対面している様子が描かれている最終ページでは、もうマスクをしている者はいなくなっている。なぜかそのことがものすごく嬉しい。私たちは過去の人からしたら未来人であって、まだ直接、過去を改変することなどできないけれど、過去にあった良くなかったことを知覚し、反省し、未来を少しずつにでも良き方向へと描いてゆける。そして、それは流れゆく“時”において、過去を改変することとなんらの変わりはない。そう、まさに「フキゲンな現在からゴキゲンな未来を描け」なのだ。改変していこうじゃないか。熊倉献がこれまで扱ってきた“想像力”というモチーフを豊かに。私たちは未来人!!!!

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