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ザイダ・バリルート『TOVE/トーベ』

Tove - Trailer - YouTube

「トーベ ムーミントロールが優しいのはなぜ?嫌われるのが怖いから?」

「彼は臆病なの、いつも不安なのよ。愛が彼を強くする、愛を邪魔されたら怒るわ」

ムーミントロールを生み出したトーベ・ヤンソン。彼女の愛の物語を映し出した『TOVE/トーベ』。戦争や自然の脅威へ抗うといった文脈で語られがちなトーベ・ヤンソンまたムーミンのストーリーを、人と人が出会い、心が育まれる物語として制作された本作は新鮮であったように思う。ただ人を愛するということが、それが同性であるからという理由だけで邪魔されてしまう、そんな理不尽なことに対してトーベ・ヤンソンは怒り、自由を求めたのであり、そんな想いがムーミンの世界の輪郭を形作っていく。

映画は足元へ向けられたカメラがゆっくりと上へ動き、激しくダンスするトーベ・ヤンソンを映し出し、『TOVE』とタイトルが表示されることによって始まる。彼女は自由に、そして激しくダンスを踊る人であるのだ、と。そして、洞窟の中で銃声に怯えながらもムーミントロールを描く姿。地上に出て荒廃した1944年ヘルシンキの街並みを歩く姿をより本作の主題が明らかになってくる。抑圧的なものへと真っ向から抵抗するように描くのではなく、あくまでも高らかに楽しく、しかし激しくダンスを踊るように抵抗するのである。そうであるから、「(絵画は)こんな時代だからこそ重要なんだ」と言う父親に「祖国のために描くの?」とムーミントロールを描きながらトーベは言うのである。しかしながら、絵画を描くことによって成功したいと思っているのであって、あくまでもムーミンを描くことを落書きの延長線上なのである。抑圧的なものから離れたところで楽しくダンスを踊ることによって抵抗することが本作の一つのテーマであるとして、さらにもうひとつは、自らの信じるものを手中に得られずとも、幸福であることができるというようなものであるし、また、直接触れることができなくとも、そのものとの関係は緩やかにでも継続していくことができるというものである。絵画を描くことによる成功は叶わずとも絵画を描くことは続けるのであるし、ヴィヴィカとの恋愛が終わっても関係が続いていくのである。恋愛的なメタファーとなるのであろう赤い服は、トーベからヴィヴィカへと移り、最後にはトゥーリッキが赤い服を着てトーベの家に入っくることにところでも用いられている。そして、新たな恋人であるトゥーリッキへ絵画を見せるところで本作は終わる。

「油絵?」

「まだ途中よ」

「タイトルは?」

「新たな旅立ち」

足元を映し出すことによって始まった本作はまさに、その足を一歩前に踏み出すことによって終わることになるのである。それは誰にも止められることではないし、邪魔をしようとするものにトーベは怒るのであろう。楽しく、自由に、そして激しくダンスを踊る。現代においてもそれは誰にも邪魔できるものではないのである。

TOVE/トーベ(字幕版)

TOVE/トーベ(字幕版)

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