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adieu『adieu 3』

f:id:You1999:20220909014251j:image柳瀬二郎(betcover‼︎)、柴田聡子、クボタカイ、澤部渡(スカート)、塩入冬湖(FINLANDS)、小袋成彬といった常連組にして豪華にも程がある陣容が作り出したアーキテクトにしっかりと息を吹き込み生命を与えるadieuの美しき声。adieu3枚目のミニアルバム『adieu 3』が夏の終わりに配信された。全6曲、異なる作家による提供ではあるのだけれど、しっかりとテーマを共有するアンソロジーとなっていて、adieuが示そうとする世界観を壊していない製作陣の舵取りも信頼できますね。アルバム全体を通して歌われるのは、物寂しい喪失感であったり、諦念であったり、望みの薄い願望であったり、しかし、それでも…というものである。軽妙なリズムに身体を揺らし、日が沈むのが早くなった日々に“終わり”を感じ取りながら、旅するのをやめようとすることに『旅立ち』と名づけている。不安そうな瞳の輝きで夢の名残を追いかけることを打ち砕く言葉の区切り方にはなかなかしんどいものがあるのだけれど、美しく、気持ち良くもある。

届く/ことはないのにね

『旅立ち』

「届く…」と放たれた希望、しかしその少しの間を置いて、「…ことはないのにね」によってもたらされる喪失感が夏の終わりとともに沈んでゆく。残酷なこの言葉の区切り方、歌唱がいい。そういうところは柴田聡子が提供する『夏の限り』にもあって、「言葉少なかったり 多すぎたり」のうまいこと喉から言葉が出ていかなかったり、つんのめる感じもいい。パーカーの紐が抜け落ちてしまって空いた穴のような喪失感を抱えながらトボトボと歩いていたけれど、最後の最後で走り出す瞬間は音楽でありながらもとても映像的に頭に思い描かれる。

月の兎と地球にいる“わたし”が見つめ合うというリリックから始まる『穴空きの空』は『半妖の夜叉姫』の第2クールエンディングテーマとして使用されていて、ここではない世界を意識させる。

adieu [ 穴空きの空 ] - YouTube

ミュージックビデオでも、生命力溢れる緑を羽織ったadieuを上空の視点から捉えたり、逆さまのショット、絶えず誰かが見張っているようなショットによって構成されている。生とここではない場所の隣り合わせの空間が余白のあるショットによって映し出されている。ゴーストのようなものが映り込むのは、死後の世界からも愛の眼差しを向けるものでもあるかもしれないし、執着のような呪いのものであるかもしれない。羊文学『ghost』同様、デヴィッド・ロウリー『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』みがありますね。

愛かもしれないし呪いかもしれない、という危うい小さな差異は『景色/欄干』という絶妙なタイトルによって引き継がれていく。目の前で変化していく景色(わたし)を眺めながら、しかし、ただ眺めるだけしかできないのだと欄干が線引きをして、そこにもたれて夜明けを待つ親密性のなかで響くadieuの歌声に酔いしれてしまう。欄干の先は落下(死)が待っているかもしれない。3分ない曲なのもいい。そして、2022年のベストソングである『ひかりのはなし』へとバトンが渡される(2021年はカネコアヤノ『抱擁』)。ちょーいい曲。何も存在していないも同然な真っ暗闇に月明かりが落ちることによって、世界を認識することができる。ひかりの美しさとしかしそれによって見えてしまう悲しみとが判然とするのだ。結局は、私たちの認識する世界は“ひかりのはなし”にすぎないのだとでもいうようなタイトルがいい。それゆえにひかりの届かない世界も存在しうるかもしれないという『穴空きの空』のビデオがまたここで想起される。『ひかりのはなし』Youtubeのビデオのコメント欄に「お母さんと赤ちゃんの歌だと思った」とのコメントがあり、たしかにと思った。「途切れぬ思いの理由は/わたしだってわからない」という血縁や家族というものによる結びつきや選ぶことのできないという意味において、“運命”という言葉が歌われるのですね。なぜか愛おしくて生きていたいと思う、と。素敵です。この感動的なマスターピースによって閉じられてもいい物語なのだけれど、心地よくリズムを刻むドラムとパーカッション、ワインのように身体に染み渡るコーラス。「繰り返す」というadieuらしいワードを携えた『ワイン』が締めくくるのが、まだ“続き”を感じさせてくれる。夏は終わったけれど、また夏はくる。幾度も繰り返す夜の途中で私たちはadieuの歌声を聴いているにすぎないのだ。「繰り返す」というのは同じ場所の行き来ではない。季節を繰り返し、年月を経て、adieuは成長していく。きっともうすぐ『adieu 4』はやってくるのだし、その前に『adieu TOUR2022-coucou-』もあります。楽しみですね。