昨日の今日

KINOUNOKYOU

お笑いとテレビと映画と本と音楽とサッカーと…

『Paris Saint-Germain JAPAN TOUR 2022』at 埼玉スタジアム2002

f:id:You1999:20220724151555j:imageパリ・サンジェルマンネイマール)を目撃するために初めての埼玉スタジアム2002に行った。初めてネイマールに会うのならやっぱりトラックなしのスタジアムがいいだろうと思って、国立競技場のvs川崎フロンターレのチケットも当たっていたのだけれど、こっちを選んだ。国立はどうにもピッチまでの距離が遠そうなのでダメだ。206入口へ行く途中、日韓W杯に出場した外国人選手のサインが展示されていたので、カカのサインの写真を撮った。わたしはカカと同じ誕生日なので、小学生の頃から有名人で誰と同じ誕生日?という話になるといちばんに「おれはカカといっしょ」と言うことにしている。カカという圧倒的な名前を借りて得意げな顔になれるのだ。あとはKOHHイマヌエル・カントなど。206入口を見つけて、チケットを差し出す。どうぞー、と言われて、スタジアムに一歩足を踏み入れた時のあの一気に視界がひらけて身震いする感覚はどれにも変え難いものである。チケットを確認し席に座るとなかなか近くて驚き感動してしまった。埼スタ良いスタジアムですね。この前のW杯出場をかけた最終予選、負けられないオーストラリア戦での田中碧のゴールをここで観れたら、どれだけ胸が高鳴ったことだろうと考える。今日は風がないので、じっとりと蝕むような暑さがじわじわと蓄積してきそうである。暑いー。

浦和の選手たちに少し遅れてパリの選手たちが登場し、アップを開始する。まずは、ナバスが姿を現し、そのあとにエンバペ、イカルディヴェラッティなどなど今日のスタメンがグラウンドに降り立つのを双眼鏡で食い入るように見つめる。ネイマールとメッシは先日の川崎フロンターレ戦に出場したから後半からなのだろう。また、ユヴェントス移籍の噂がたびたび浮上しているパレデスは筋肉系の違和感からベンチ外になったようで、とても残念。ラビオとのトレードとなりそうなのだけれど、わたしはラビアのことめちゃ好きなのでなかなか複雑だ。しかし、パリで良い時間を過ごさなかったラビオが華の都に戻るのだろうか。f:id:You1999:20220725050652j:image選手入場し、写真撮影を終えてから、いよいよキックオフ。エンバペがボールを触るたびにどよめきと喝采がスタジアムを包む。ああ、本当にエンバペが目の前にいるのだなあ、と実感する。試合前、声出しや指笛などは禁止というアナウンスがされていたわけだけれども、そんなのはお構いなしに指笛の音がそこかしこで聴こえてくる。まあ、たしかにこの興奮を表現するためには声を出したり、指笛を鳴らしたい衝動というのは禁じ得ないでしょう、とは思いつつも、やはり浦和レッズというバイアスのかかったシンボルが脳内でチラついてしまう。

試合序盤はシーズン中である浦和のエネルギーの方が上回り、前からのプレスから試合を優位に進めていく。ナバスのビックセーブに阻まれたものの伊藤敦樹の素晴らしいシュートも放たれる。しかし、ロングボールに競り勝ったのをそのままゴール前まで、トン、トン、トン、と美しいパスワークで運び、あっさりとサラビアによる先制点を決めてしまえば、徐々にパリの選手たちは環境に適応していき、ボールを保持し始めるわけであって、その中心的な役割をするのが、この前の試合には出場していなかったイタリア代表のヴェラッティなのだ。中盤の底でキャプテンマークを巻いた彼が随所に顔を出して、ボールを受け取り、うっとりしてしまう華麗なターンで視線を集めながら適所へとボールを散らしていく。うわあ、ヴェラッティだなあ、と思わずニヤニヤしてしまう。ネイマールだ、メッシだ、エンバペだ、と騒いでいるけれども、ヴェラッティを見れることの喜びも相当なものである。いつかユヴェントスへ…期待したいものです。そんなヴェラッティが相手の足をかわすためにボールをふわっと浮かせて、エンバペにアバウトなボールを供給したところからスイッチが入る。エンバペは無理にトラップせず、サラッとアウトサイドで裏のベルナトに流すシーンには「うお〜」と歓声があがる。これが2回あったのだけど、その2回目では、エンバペがそらしたあと、ベルナトからペナルティ付近でリターンを受け、トラップと同時に2人を置き去りにし(まさに出力を30から100にグイッと変えてしまうのだ!)、しっかりとサイドをえぐって、キーパー頭上にズドン!という「さすが!」としか言いようがないゴールシーンにつながっていった。もうこれには嘆息せざるを得なくて、はあ、すげえや、というスタジアムの笑い声や拍手がひとりの男に降り注いでいた。エンバペは大きいし、広いストライドによる推進力は躍動感がある。体躯がほんとに高級スポーツカーのようである。

夢のような時間はあっという間。過ぎ去る時間というのはあまりにも残酷である。後半に備えて、ざわざわとトイレに立ったり、スタジアムグルメに走ったりするなか、わたしは双眼鏡を構えて、パリのベンチに視線を向ける。うーん、まだ動きはないよう。もしや、今日は出ないなんてことはないよね…というバッドエンドが頭をよぎったのだけれど、後半開始早々にその心配は杞憂に終わる。良かった…と胸を撫で下ろす。

ハーフタイム明け、ネイマールとメッシが並んでアップを始めたのだ!双眼鏡でその一挙手一投足に目を凝らしながら、ネイマールを知ったのはいつだろう、と考えてみる。やっぱり日本からは柏レイソルが出場した2011年のFIFAクラブワールドカップのときだろうか。当時、サントスに所属していた若きネイマールは19歳であった。今でいう2018年のワールドカップで世界から注目されたエンバペのようなニューヒーロー登場の衝撃であっただろうか。鼻にテープを貼り、髪の毛を逆立て、華奢な少年は甘美なボールタッチと縦への推進力を持ち、ボール触るごとに観客を魅了するのであった。そして、あの華麗なミドルシュートである。キックフェイントから左足で美しい弧を描いてみせたのは記憶から消して離れることがない。

試合中だというのに、わたしの隣に座っていた男2人組が席を立って、すみません、とか言いながら外へ出て行ってしまった。不思議である(ネイマールとメッシの出場前には戻ってきたのだけれど、手には食べものがあって、超人を目に焼き付けておかなくて良いのか…!と思ってしまった)。彼らが出て行った少しあとに、メッシがユニフォームに着替えている様子が大型ビジョンに映し出され、いよいよか!と会場全体がざわつきだし、そのざわつきがだんだんと波及し、大歓声に変わっていく。

今日、ネイマールは30歳である。たびたびサッカーの外側の行為で世間を騒がしながら、この10年で、彼はいくつもの栄誉とメダルを手にしてきた。サントスからバルセロナに渡り、ウルグアイ代表ルイス・スアレス、アルゼンチン代表リオネル・メッシと共に強烈な3トップを構成し、世界中を熱狂の渦に包み込んだ。あまりにも多くのものを手にした青年は、しかし、世界年間最優秀選手に贈られる賞であるバロンドールの証を得ることは今もまだできていない。それは隣に、サッカーという概念の一部をも担ってしまえるのでないかという人間、リオネル・メッシがいたからであるのかもしれない。そして、ネイマールが自らの手で何かを掴み取ったという証左を得るための新たな野望の場として選んだのが、このパリ・サンジェルマンであった。PSG初陣でのあのパフォーマンスはまだまだ記憶に新しい。2022年、何故かリオネル・メッシが後を追うようにして、この紺色のユニフォームを着てネイマールの隣に立っている。どんな運命の巡り合わせであるのだろうか。「メッシ〜!ネイマール〜!」という呼ぶ子どもの声が聴こえてくる。イカルディとの交代でメッシが、エンバペとの交代でネイマールがピッチに踏み込と会場から割れんばかりの拍手が降り注ぐ。「世界」がすぐそこにいるのだ。

2人が試合に入ったところで、ちょうどよく浦和のファウルからパリのボールになる。挨拶がわりの直接フリーキックゴールになるだろうか、という期待感で胸がいっぱいである。f:id:You1999:20220725043252j:imageキッカーの位置にはネイマールとメッシが立ち、大型ビジョンにもその様子が映し出される。ヤバすぎだ。もう、すぐそこに!いるのだ。ネイマールがすぐそこにいるのである。直接ゴールとはならなかったものの、なんという幸福感なのだろう…と胸の高鳴りが凄まじい。もうこうなると試合展開はパリの一方的な押し込む形になるのであって、前半がヴェラッティのワンポイントでアクセントを加えていたのが、後半60分にして2地点からの供給、そして、世界最高峰のドリブルがあるからして、捕まえるのはたいへんだろう。

ネイマールがドリブルし、タックルを受け、足首をおさえながら蹲ってる姿が大型ビジョンに映し出されると、待ってました!と言わんばかりにスタジアムで失笑が溢れる。たしかにわたしも、おお〜これよこれよ、と思ってしまったのだけれど、あの軽んじたような失笑には少し気に食わない気持ちにもなってしまった。なんてことだ、けしからん、と思う。すこし過剰かもしれないのだけれど、タックルを受けていることは紛れもない事実なのであって、それを審判に対して表現していくことは重要だろう、と思うわけである。少し遠くの席に「リオネーーーーール!リオネーーーーーーーーーーーール!!!」と叫んでいるアルゼンチン代表ユニフォームを着た男の姿が見える。顔立ちからみて、おそらくアルゼンチン人なのだろう。その男の「リオネーーーーール」という叫びに、ひとりの日本人青年が呼応するようにして、「リオネーーーーール笑笑」と茶化すようにして叫んだりしていた。わたしも「ネイマ〜〜〜ル〜〜〜」と叫びたい気持ちはあったのだけれど、そんな度胸はないし、そもそもそんなに大きな声は出せない。一応、声出しが禁止されている試合でもあるのだし。しかし、身体はグツグツと沸騰し、声は出さなくともたしかにネイマールとの交感は果たしているのだ、とピッチに視線を向けた。

70分過ぎには、マルキーニョス、ハキミ、キンペンベ、セルヒオ・ラモスなどが次々に投入されていく。いやはや、圧巻である。わたしは例のCL決勝でのサラーの件からラモスを本当に許せないのだけれども、しかし、途中交代でピッチに現れるやいなや、会場を見渡し、観客席に向けて手を振ってくれたのです!そんなことをしてくれたら「きゃ〜ラモス〜」と手を振りかえしてしまうのであって………悔しいです。はあ…手を張ってくれちゃうんだなあ、としみじみ。わたしは弱い人間である。

ネイマールの鋭い縦パスからメンデスのクロス、新たなフランスの未来であるだろうアルノー・カリムエンド=ムインガが先日の試合に続けての得点を決めたら、0-3となり試合も決まってしまう。正味30分ではあったのだけれど、本当に至福の時間であった。シーズン前であるから、まだまだ身体のキレは十分でないだろうし、監督が変わったばかりで戦術的な共通意識の共有も不足しているのだろうけれど、瞬間的な個人の煌めきとコンビネーションによる芸術に胸が熱くなる。この込み上げてくる熱情が“世界”なのであり、“ネイマール”であるのだろう、と思えたこの熱帯夜をわたしはこの先もずーっと忘れることがないだろう。ネイマールバロンドール取ってくれよ。。。f:id:You1999:20220725051305j:imagef:id:You1999:20220802022458j:image