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東京女子流『ノクターナル』

f:id:You1999:20220901151700j:image東京女子流の7年ぶりとなる6thオリジナルフルアルバム『ノクターナル』は、しっとりと街を包む夜の帳に少しずつ煌めく星々や電飾の明かりを浮かべたようなIntroを抜け、雨降る夜に「グッドモーニング」と新井ひとみが囁く『Viva la 恋心』によって、12年の時を刻んだ星時計の物語の始まりを告げる。小さな星たちの(東京女子流のシンボルでもあるアスタリスクは、彼女たちを小さな星に見立てたもの)、大人になった今を映し出す物語は、単純な「きみ」と「わたし」のストーリーを乗り越えて、「Good bye sweet days」と宣言し、その円環の外側にある誰かの存在を意識させる。2人だけの間で共有される“かけがえのなさ”に対する諦念のようなものがありながら、しかし、諦めきれない…という心の動きが、何度も上下する運動によって表現されている。

東京は鳴り止まない雨

空にだってゆけるのでは?

海底 深く沈むように…

落下する雨粒、空に上昇していくような昂り、でもすぐに海底に深く沈んでいく。「今夜フォーエバー/でも止まらない viva 問えば」。AORっぽい要素を入れたというメロの上で心地よく韻を踏みながらもアップダウンの激しい心模様が巧みに表現されていて*1、物語の結末がハッピーエンドを向かえないだろうと示唆されるのも切ない。しかし、タイトルには『Viva la 恋心』と冠されているのだ(「Viva la」は「〜万歳」という意味)。この楽曲の密度が複雑な表現を等身大で可能にしてみせる今の東京女子流であることのアナウンスであり、7年ぶりのフルアルバムということの意味を揺るぎないものとしているでしょう。

アルバムのタイトル『ノクターナル』が星時計を意味することから、時計の針の回転を思わせるような円環を描く表現が随所に表れているのにも注目だ。

東京女子流 - Viva La 恋心 (Official Music Video) - YouTube

『Viva la 恋心』のMVでは4人が背中を合わせて踊る姿をぐるぐる回るカメラワークで撮らえられている。もはや結論は出ているのに何度も2人の未来を考えてしまうこと、まだ一緒の未来を描くことは可能なんじゃないかと『ストロベリーフロート』をかき混ぜる仕草によって、円を描く。

(アイスクリーム…)かき混ぜる

前の席には恋人が座っているのだろうけれど、「こぼれ落ちてく/ぐちゃぐちゃに」とあるから、そのかき混ぜ方はなかなかに高速なのか、雑なのか、とにかくもう修復不可能なのであろうと推測できるし、なによりもめちゃくちゃ気まずい空間になっているのでしょう。「甘いだけじゃ…No way」。ガタッと席を立ち去るものの『この雨が上がっても』(めちゃ好き!)にあるように、あのとき…ああしていればもしかしたら…というネガティブなイマジネーションが止まらないのが、この雨が上がっても…という悲観的なものを連想させるタイトルである*2。そんな艶やかながらもしんどいムーブを救うのが「出会い?」であるのが笑ってしまうくらいに最高だし、かわいい。

気分次第の日々が
終わりに向かう…出会い?

単純に人との出会いということではなく、ポップカルチャーとの出会いということであって、レコードを回して救いを得るという美しい衝動が派手な照明の下で踊るビデオからも楽しく伝わってくる。なんで私たちは歌うのか、といったこの7年の試行錯誤した葛藤への清々しいアンサーである。「出会い?」というのは東京女子流と新しい作家陣との出会いでもあって、『Viva la 恋心』と『コーナーカット・メモリーズ』は、きなみうみという東京女子流と同世代の作家が担当だ。

東京女子流 - コーナーカット・メモリーズ (Official Music Video) - YouTube

中江友梨の「…予感⁉︎」の楽しさは尋常じゃないですね。めちゃキュートだ。そのまま『夢の中に連れてって』と逃避していくのだけれど、「目が覚めれば/ブレブレな理想と現実」などのように少しずつしっかりと刺しにくるのもこの『ノクターナル』の特徴と言えるかもしれない。そんな傷心した心を癒すかのように歌われるとんでもなくエモい『Dear mama』*3や、喋りまくって治癒を促す『ガールズトーク』、回復したのなら踊り出そうぜ!とミラーボールに照らされる『フライデーナイト』も最高だ。『ストロベリーフロート』へのアンサーソングだという『僕は嘘つき』をアルバムのこのタイミングに配置して、「きみ」という存在の輪郭を重層的に描いていく。『days ~キミだけがいない街〜』、『ワ.ガ.マ.マ. - MURO’s  KG Remix album ver.』という夜を闊歩するにふさわしい楽曲でアルバムを締めくくり、次の朝を迎えようとしている。東京女子流はたった今、始まったばかりなのだ、とさえ思わせてくれる6thオリジナルフルアルバム『ノクターナル』の針はこれからも時を刻んでいくのだ。

 

*1:東京女子流インタビュー|結成12年でたどり着いた等身大でフレッシュな充実作「ノクターナル」はどのように生まれたのか - 音楽ナタリー 特集・インタビュー (natalie.mu)

*2:「つっき、あかり〜」とか「あっま、もよう〜」とかのアクセント口ずさんでしまいますよね

*3:Spotify再生画面では幼少期の写真が背景画面でそれがもう…